学校の近くに住んでいる夏帆を家まで送り届けてから、俺は家路についた。

自分の意気地のなさにため息が出る。


それを振り払うように走って、普段より15分も早く家に着いた。

制服を着替え、サンダルを履いて家を飛び出す。
海へ行くためだ。



今朝と同じ、波止場のところまで走った。潮風が身を包む。悩みはさらってどこかへ飛ばしてくれる。


景色が開け、波止場へ出た。

息を整え辺りを見渡すが、それらしき影の映った海面は見つからない。

名前を呼ぼうかと口を開いた瞬間、足元の海面にプクプクと泡が浮き出した。


「……アクア……」


しゃがんで泡のところへ呟くと、アクアが顔を出した。
最初は目と鼻だけで辺りを見回し、俺だけだと知ると、口から首までをのぞかせた。


「よかったあ。来てくれて、ありがとう」


アクアは笑顔で言った。


「あの……ね、ここ、危険だって。やっぱり、人が通る場所だしって」

「えっ……じゃあ……」

「うん、だから、向こうに来て。私が寝ているところなの」


アクアはばあちゃんの家と反対の方向を指した。