その日の放課後、チャイムが鳴ると同時に実紗があたしの席まで走ってきた。


手には鞄を持ち、すでに帰る準備万端だ。


「ほら、早く行こうよ陽子」


「ちょっと待って。まだ教科書を鞄に入れてないのよ」


急かす実紗をじらすように、あたしは机の中の教科書をゆっくりと鞄に入れた。


なにか嫌な予感が胸をかすめる。


このまま実紗と一緒にお店へ行っていいものかどうか、心が迷っている。


こういう直感的な迷いは無視しない方がいいと、あたしは幼いころから感じていた。


たとえば幼稚園の運動会のとき。


朝からそわそわして落ち着かなくて、それは緊張のせいなどではないと、あたしは理解していた。


しかしどうしてそわそわするのかもわからないまま運動会が始まった時、


近所に住む1人暮らしの若い男が刃物を持って園内に忍び込み、危うく大惨事となるところだった。