あたしの気分が悪いとわかってか、運転手さんは来たときよりも丁寧な運転をしてくれた。


ゆったりとした音楽が車内にかかり、あたしの気持ちも少しは落ち着いてきていた。


「随分顔色がよくなりましたね」


良子さんと2人で後部座席に座っていたあたしに向かって、運転手さんがそう言う。


バックミラーで確認したみたいだ。


「はい。もう大丈夫です」


おだやかな話口調の男性運転手さんは白髪交じりでもう60代に見えた。


「それはよかった。あなたたちをみていたら、勝手ながら昔の事を思い出しましたよ」


そう言い、運転手さんは目尻にシワをつくって笑った。


「昔のことですか?」


助手席に座っていた恭子さんがそう聞く。


あたしは正直運転手さんの昔話なんて興味はなくて、なんとなく耳を傾けている程度だった。


「昔、1人の女の子をこのタクシーに乗せてあの商店街まで行ったんですよ。


その女の子はひどく落ち込んでいて、自殺でもしてしまうんじゃないかと思うくらい顔色が悪くてねぇ……」


車が赤信号で停車した。


エンジン音が静かになり、音楽が大きく聞こえ始める。