昼下がりの暖かな日差しの中、友人の戸田実紗(トダミサ)が頬を膨らませて胸にキュッと少女漫画を抱いた。


教室の中は昼食の匂いにつつまれていて、窓際のあたしの席は秋口でも眠気を誘う。


あたしはなんとか眠気を振り払いながら実紗を見た。


実紗とあたしは横井崎高校の2年生で、1年の頃から同じクラス。


一番仲がいいと言っても過言ではない仲だ。


「陽子(ヒナコ)はどう? 彼氏ほしくない?」


つい先ほどまで、胸に抱えた少女漫画のような恋がしたいと話していた実紗が、あたし、山下陽子(ヤマシタ ヒナコ)の表情をうかがうようにそう尋ねてきた。


あたしはといえば恋だの愛だのという事にとてつもなく疎くて、どう? と聞かれても返す言葉なんて持ち合わせてはいなかった。


「うん……まぁ……ねぇ?」


と、曖昧に微笑みを作り、曖昧な返事をするのが精いっぱいだ。


妙な勘違いをされても困るし、興味がないなどとハッキリ言い過ぎると実紗が引いてしまう。