【第四章】
~疑惑のある日常~



 その日の営業を終えてやっと2階に上がると、久遠くんが居間で仰向けに寝転がっていた。
 顔には、凄く古そうな本が被さっている。


「・・・久遠くん?」


 呼び掛けてみるけど、返事はない。
 寝てるのかな?
 テーブルの上には、ちゃんとご飯が用意してある。
 ・・・なんか・・・久遠くんて、不思議な人だ。
 何を考えてるのか全く分からない。
 でも。
 血が見たいって言った久遠くんも。
 あたしを抱き締めて「俺が守る」って言ってくれた久遠くんも。
 この町の人と話をしただけで不機嫌になる久遠くんも。
 サスケと遊ぶ時の優しい表情の久遠くんも。
 全部、本当だと思うんだ。
 この人は絶対に、ウソをついたりしない。
 今まで一緒にいて、分かったもん。
 ちょっと無口で、人付き合いは不器用だけど。
 本当は、素直で真っ直ぐなんだ。
 だから、出来たら。
 あたしに出来る事があれば、力になってあげたいって、心底思うんだ。


「あたしで良かったら・・・ね、何でも言ってね」


 動かない久遠くんに、そう声を掛けてみる。
 そしてふと、久遠くんが顔に被せている古い本らしきものに目が行った。


【鬼姫呪怨伝説】


 表紙には、そんな文字が書かれていた。
 何だか、怖そうな題名だわ。
 これって・・・駄菓子屋のお婆ちゃんが貸してくれた本よね。
 確か絵本って言ってたけど・・・どう見ても、子供が読んで喜ぶようなものじゃないよねぇ。
 まじまじと、その本を見つめるあたし。
 気が付くと、久遠くんの方へ身を乗り出していた。
 すると。


「わっ!?」


 いきなり腕を掴まれて、引き倒された。


「く・・・久遠くん!?」
「捕まえた」


 クスクス笑いながら、久遠くんはあたしに覆い被さる。