【第二章】
~退魔師の日常~




 その日の松の湯の営業は、いつにも増して賑やかだった。
 町中の人が久遠くんの顔を見に来たって感じ。
 さすが、下町マダムの情報伝達力。
 午後3時の営業開始前から、まずはマダム連中が押し掛けてきて。
 この短時間でこれだけ噂が広がるって・・・この町じゃインターネットとか、いらないかも知れない。


「あら! 話に聞いたよりもいい男じゃない」
「おばちゃんミカン持って来たのよ、良かったら食べてね」
「やだよーまっちゃん、心配してたんだけど、ちゃんと男探してたんだねぇ」


 ・・・なんちゅう言い草なんだろ。
 どんだけ心配されてたんだ、あたし。
 ノリカちゃんに至っては、また久遠くんに会えた事が嬉しかったらしい。


「へぇー、久遠くんって言うんだ? 昨日聞けなかったからさ。もう二度と会えなかったらどうしようかって思ってた」


 ・・・確か昨日、結婚を前提としてお付き合いする事になった彼氏が出来たんじゃなかったっけ?
 あまり感情を表さないタイプの久遠くんも、町の人達の質問責めにもちゃんと笑顔で対応していた。
 おばちゃん達と笑顔で話している久遠くんを、あたしは微笑ましく見つめている。


「マツコぉぉぉ~!!」


 夕方、一升瓶を抱えてやって来たシゲさんには、いきなり抱き締められた。


「良かった! 良かったなぁぁマツコ、これで松の湯も将来安泰だなぁ!」


 涙ぐまなくても・・・。


「ちょっとシゲさん、久遠くんはたまたま縁があって、ここでバイトしてもらってるだけよ。それにしても、今日はやたらと早い時間に来たね」
「ったりめェだ、これが飲まずにいられるかってんだ!」


 祝杯だぁ! とか言って、すでにみんなでヤンヤヤンヤと宴会が始まっている。


「なんか、すごい事になってるな」


 番台に座るあたしの隣にやって来て、久遠くんが言った。
 あたしは苦笑して。


「いつもの事だから・・・あ、久遠くん、座って休憩してていいよ。疲れたでしょ?」
「大丈夫だよ」


 やっぱり、人手があるって凄い助かる。
 今日の掃除、手分けしたから半分だったし。
 重い物を運ぶ仕事は、全部久遠くんがやってくれた。
 細い割には、腕力あるんだわ。
 さすが男性。
 接客も、普通に愛想いいし。
 今日だけで、久遠くんのファンが何人増えた事か。