翌朝は、いつもより早めに起きてみた。
まず最初は毎朝恒例のお弁当作り。
もちろん昨日西山くんが好きと言った甘い玉子焼きを作るのは忘れない。
綺麗にお弁当箱を包めたら、今度は山城くんに言われた通り“ヤキモキ大作戦その②”を実行するための準備を始める。
いつもは滅多に手を付けないメイク用品にも手を出して、鏡の前で丁寧に丁寧に顔に魔法を施していく。
普段あまり気に掛けることのない爪にマニキュアを塗ってみるものの、色がはみ出たりして中々上手く塗ることが出来ない。
(ちくしょうめがこの不器用女め)
マニキュアの入った小瓶をうっかり倒しそうになったときは、心の底から焦燥感が沸き上がった。
気が付いたらいつの間にか約束の時間を少し過ぎていて、マニキュア塗りは途中で諦めて慌てて鞄を手に取り家を飛び出す。
近頃日に日に増して寒くなってきている最中。
天気予報で雨が降るとのことで、一応のため手袋と傘を持っていく。
今日も西山くんは同じ場所に立って、下に視線を向けて立っている。
相変わらず今日も格好いいなあ。
その格好良さを私に少しばかり分けて欲しいものだね。
結構な寒がりの西山くんは、肩を竦めて心なしか少し震えている。
確かに先程まで家の中に居たから分からなかったけれど、昨日と比べて随分と気温が低くなったような気がする。
「おはよう西山くん!」
「…………おはよ」
「ごめんね遅くなって。待ったよね」
「…………別に」
「そっか。行こっか」
西山くんの隣りに並んで歩きながら、感じる違和感に疑問を覚えずにはいられない。
挨拶を返されたのなんて、初めてだ。
付き合ってそんなこと、未だ1度もなかったのに。
気になってこっそり視線を横に向けたつもりが、タイミングが良いのか悪いのか、丁度こちらを見ていた西山くんと視線が交わった。
「お、に、西山くん?私の顔何か付いてる?」
西山くんは私の質問に言葉で答えることなく、頭を横に振って否定の意味を示す。
その後も、なぜか横から感じてくる視線に戸惑いが隠せない。