遡ること約一年前の、四月三十日。
 去年も三連休と三連休に挟まれた出勤日で、イベントの手伝いに駆り出されていた。

 うちの会社は農機具メーカーの子会社で、家庭用工具を製作・販売している。
 去年は付き合いのある建材メーカーさんと協賛で、工業機械の展示会というものに初めて参加することになり、販売部の新人である私は、展示説明員という大役を任されていた。

 といってもお客さんが全然来ない。

 工業機械の展示会というもの自体がぶっちゃけ微妙な上、人気があるのはやっぱり工業用ロボットコーナーだ。
 芝刈り機や高圧洗浄機を展示している、うちのブースは超不人気。

 しかし転機は突然訪れた。


「わー、何これ何これ」

「お水遊びー?」

 はしゃぎ声を上げながら、だだっーと駆け寄ってきたのは、平均年齢五歳くらいの男の子三人。
 実演用に展示してある高圧洗浄機を取り囲み、瞳を輝かせる。

「これはねー、お水だけで汚れがピカピカになる機械だよ。おうちの壁とか、車もピカピカにできるんだよー」

 一緒に来ているであろう大人は見当たらない。
 歌のお姉さんばりにニコニコして、ゆっくり口調で答えると、子供たちのテンションはさらに上がった。

「やりたいやりたい!」

「駿もやりたいっ」

「俺も俺もっ」

 大きな水槽に置いてある「お試しください」の高圧洗浄機を子供たちが取り合う。
 うわお、一気に人気者。

「一人ずつ順番だよー。危ないからねー。使い方、説明するから聞いてね」

 優しく注意すると、うんっと元気よく素直なお返事をして、私の手元に注目する。
 好奇心旺盛な、キラキラした瞳が可愛いなあ。