秋月くんの隣を歩くこと数分。


会話も何もないこの空気が心地よくも感じるのと同時に、気まずくも感じる。


ずっと無言の状態はやはり耐えられない。


チラリと秋月くんの方を盗み見る。


瞬間、合わさる。瞳と瞳。


私の視線を感じたのか、彼がこちらを向いたから。



「…さっきの男か?」


「あ、はい」



そして、小さく問いかける。


秋月くんから話を切り出すとは思っていなかったから、少し驚いてしまった。


私が言うと前を向いてしまったけど。



歩みを進める足は緩まない。


だけど、彼について行くのが辛くないからゆっくり歩いてくれているのだろう。


何も言わないところでの小さな気遣い。


自然にそれをやってのける秋月くんはやはりモテるのだろうか。


彼の横顔を見つめているとやはり心拍数はだんだんと上がっていく。


そこらの芸能人よりもかっこよく見えるのは、私の目がおかしいのか。


何か変なフィルターでもかかっているのか。



「暫くは帰るか…」


「え?」


「一緒に」



私の方は一切見ずに秋月くんが言う。


彼の瞳は今、何を写しているの?


射るような鋭い瞳で見上げる空。


雲が覆う夜空。今日は月も星も見えない。


厚い雲がそこにはあった。


月が見えないということが少し残念でもある。


秋月くんには月がよく似合うから。