絶崖の孤城。
 周囲は見渡す限りの砂漠。
 
 誰もいない。
 ただ一つだけの命。
 永らえて、死することすら叶わない。

 ここに幽閉されて幾許の時が流れたことだろう。
 その存在を知る者は皆息絶えた。

 緑豊かだった大地も、この悲しみに呑み込まれ枯れ果て、消え去った。
 
 ただ生き続けている。それだけのこと。

 命を尊び、敬い、生を喜べと、誰が言っただろう。
 かつては確かに、そんな時期もあった。 
 だがこうしてただひたすらに、時の流れるまままるでそれに歯向かうように、老いることもない。

 不老不死。

 本来なら誰もが渇望する甘美なる響きの言葉。
 しかしその実は、苦痛でしかない。

 誰が言っただろう。
 どうか、精一杯生きろと。
 
 それが皮肉にも、全てを失う結果となったとしても、まだこうして生きていなければならないのか。
 その瞳に宿る光には喜びも希望もない、深く深く沈んだ悲しみ。
 まさに光すら届かぬ深海のよう。

 これまで多くの死を見送ってきた。
 この存在を知る者はそうして全て息絶えた。
 緑と共に、生命の輝きも失われた。
 絶望に近い時間だけが流れていく。
 
 まるでただ一人、そこに置き去りにして。

 今の周囲は、見渡す限りの砂漠の海。
 その大地の海に漂い泳ぐ生命の欠片もない。

 どうして生き続けている。
 自分だけが。
 何ゆえ死ぬことが赦されない。
 自分だけが。
 
 生き残ることが、こんなにもこんなにも苦しいとは。悲しいとは。

 誰も誰もいない砂漠の海にそびえ立つ絶崖の孤城でただ一人、永い永い途方もない時の海を漂い続け、深海に沈む悲しみよ。もたらされる虚無よ。

 終わらせて。終わらせろ。もうこんなにも生きることが辛い。

 特異な存在と恐れられ、悪魔の申し子だとこの孤城に幽閉されたが、今やそうした連中の寿命も尽きてどれだけの時が流れたことか。
 
 この世に産まれ、生きて、老いて、死んでゆく。
 その行程が今ではこんなにも羨ましくてならない。

 夜になればいつも空を見上げる。
 夜の澄み切った空は、幻想溢るる、神秘なる宇宙が見られる。