俺――呉橋 海(クレハシ カイ)には、それはそれは意地悪な兄貴がいる。




「おはよう、海。今日も変わらずアホ面してるね。」



朝一から爽やかな笑顔を引っさげての挨拶。



「だ、誰がアホ面だ!」
「え?ああ、もしかして今日はまだ鏡見てないのかな?可哀想に。早く鏡見た方がいいよ。」


兄貴はコーヒーを飲みながら、挑発的な笑みを浮かべた。



「ほんと朝からムカつく野郎だな!」
「ダメだよ、海。お兄ちゃんに向かってそんな事言っちゃ」
「なーにがお兄ちゃんだ、気色悪い。」



俺は食卓に座り、用意されていたパンに手を伸ばす。


共働きの両親は朝は早く、夜は遅い。


こうして用意されている朝食を食べるのが日課になっている。



「海、そんな事言っていいの?」



兄貴がニヤリと笑う。



「――お仕置きされたいのかな?」
「なっ……誰が!!」
「そっか、そっか。じゃあ今夜、楽しみにしててね。」



兄貴は残りのコーヒーを飲み干すと席を立つ。


「だから違うって言って――」
「じゃ学校行ってくるよ。」



ぽんっと頭を一撫でされる。


俺の制す言葉なんて聞かず、兄貴は家を出ていった。



「……バカ兄貴。」



撫でられた頭に触れて、小さく呟いた。