3月4日20:40


署内で夕食を食べ終え、しばしの休息

をとっていた雪の耳には、救急要請を知

らせるサイレンとアナウンスが聞こえて

きた。



救急要請によると、女性が倒れ心肺停止

との事。



すぐに車内に乗り込み、どんな災害にも

対応できる準備をする。

この現場に着くまでの悲しさは計り知れ

ないのだ。

何十回、何百回と出動しようが、目的地

には苦しんでいる者がいるのだから。




現場に着くと、家族であろう幼い女の子

が、泣きじゃくっている姿が目に飛び込

んできたのだ。



話を聞ける状態ではないのが理解出来た

ため、雪は穏やかにゆっくりとした口調

で質問する。



「お家あがるね。どこにいるか教えてく

れるかな?」



その子が指差した部屋の中に入ると、ま

たもや人形のように綺麗なままで座る、

女性の姿があったのだ。




(まただ……また同じ……)



そう考えながら、雪は辺りを見渡したが

特に変わった様子もなく、携帯が床に落

ちているだけである。



「おねえ……ちゃんが……

おねえちゃんが……お願い……助けて……

だいすきな……おねえちゃんが……

お願いします……助けてください……」



妹であろう者の懸命な叫びを聞きながら

すぐに処置を施し、車内に乗せる。

そしてそのまま、病院に急ぎながら車内

でも処置を繰り返し続ける。



目の前で話す事も、動く事も無くなって

しまった身体に命を呼び戻す為。