3月1日9:15



ひんやりとした風が踊る季節。

小鳥たちは小さな心を温めるように、体

を震わせ優しく歌う。

見上げる空は、まるで絵葉書の世界のよ

う。



そして、全てを優しく包み込むような空

気に触れながら、署内に響く充実感の溢

れた声が聞こえる。



「よーしっ! 帰ろう!」



今日も新しい1日が始まろうとしている

早朝。

消防署内では、一人の消防士が帰宅準備

をしていたのだ。




「今日も頑張った!  頑張った!

お疲れ様でした。帰りますわ!」



「お疲れ様!  亀城消防士、また明日

なぁ!」



「はぃ。お疲れ様でしたぁ! 今日は

件数が少ないといいですね!

昨日は、深夜に救急要請が多くて大変で

したわぁ」



「ほんとそれよなー。件数が少ないにこ

したことないんよな、俺らの仕事は!

しかし……亀城消防士が元気な顔に戻って

良かったわ。

何があったかは知らんが一時は、疲れき

った表情してたから、みんな心配してた

んやが……

でも最近は、良い表情してるわ!

亀城消防士、ゆっくり休んでよ!」



「え? 疲れた顔してましたか?

特に何もなかったような?

アハハ。でも、ご心配してもらってたみたい

で、ありがとうございます!

じゃあ……帰ります! また明日です!

2部の方達、今日も頑張ってください」





消防士。
【亀城 雪:ユキ、19歳、救急隊員】



高校を卒業し、消防学校にて訓練を終えたあと

に、この消防署に配属されて五ヶ月。


仕事のリズムにも慣れ始めてきた頃であった。

そして、それに満足している日々でもある。





しかし、日本中を巻き込み、あんなにも

恐ろしく悲しい出来事が起こるなんて……



雪は、この清々しい空気が漂う中、夢にも思う

はずなんてなかった。