祝前家が『祝前麻里奈』につけた執事藤宮は、草薙隆雄のお願いで、敷地出入り禁止を命じられた。
実際、お願いなんてかわいらしいものではなく、命令と言ったほうが正しい。
あんな堅物執事がおとなしく命令を聞いたものだから、格の違いというものを感じる他ない。

今、草薙に反抗するのはよくないこと。
自分の目で確かめた。

ただ、敷地には入れずとも、常に付近に控えていることは許されたらしい。
外出時には同行するとのこと。
どちらにせよ、逃げられない。

というわけで、客室に案内された私は、まず、目をしばたたかせた。

「ここがお前の部屋だ」

豪邸から少し離れた木陰。
もちろん草薙家の敷地内に、ひっそりと佇む木造の小屋。
立て付けの悪い扉、木箱を積み上げただけの簡易ベッド、絵に描いたようなぼろぼろのせんべい布団。
よくもまあ、豪華絢爛な豪邸にこんな小屋があったものだと逆にびっくり。

「期間は無期限。俺がいいというまでここで生活してもらう。嫌とは言わないよなー、祝前の為、だもんなー」

長期、泊り込みのお見合いだったらしい。
私としては、祝前家には戻りたくないと思っていたから好都合。
執事という名の監視役もいないし、しばらくは平穏な日々を過ごせそうだ。

「でー、その馬子にも衣装な服を脱いで今すぐ着替えろ。あの中にある」

彼が指したのは隅にぽつんとある段ボール箱。
私は部屋に入り蓋を開けた。
白いシャツの下に黒の布。
喫茶店のバイトで着ていたのと一見似通っているが、あれはこんなに幅をとらない。
取り出して広げてみると、それは女性の使用人が着用しているもの。
いわゆるメイド服だった。