『紀久ちゃん、支度はできとるね 』

隣の常ちゃんが朝7時丁度におばぁちゃんを迎えに来た。

『香奈ちゃんおはよう。今日は1人で畑に行くんかね?』


そう言って常ちゃんは香奈の格好を見て笑った。


畑に行く用の戦闘服を着ていたからだ。香奈は少し照れくさかったけれど、もうその格好には慣れていたから少し自慢気に常ちゃんを見た。


『えへ。ばぁちゃん今晩の惣菜、香奈が作るし楽しみにしとってな。常ちゃんよろしくお願いします』


そう言うとやっとこ慣れたネコ車に鍬や鋏を乗せると軍手をはめてニッコリ笑った。


そんな日に日に変わる香奈の姿を微笑ましく思いながら常ちゃんはホッコリとした気持ちになっていた。


『少しは暖かくなったねぇ。もうすぐ春やし香奈ちゃんの顔にももうすぐ春が来るって書いてるわ』


そう言われた香奈は気持ちに暖かい風が吹き込んで来たようなこそばい感じがして空を見上げた。


『したらな、香奈行ってくるしな。悪いけんども晩の米も洗っといてくれるとたすかるんやけども』


おばぁちゃんは何時もは着ない藤色のセーターとクリーム色の長いスカートを履いて髪の毛はぴったりと椿油で整えていた。

『ばぁちゃん、別嬪さんになってるで』

香奈はニコニコしながら笑って言った。


『たまには、ばぁも色気つかんとなぁ。ほな行って来ます』

照れくさいのか顔を桜色に染めておばぁちゃんは言った。


常ちゃんは軽トラの運転席から顔を出すと手を振ってからエンジンをかけ上手にミッションのギアをトップに入れて静かに発進した。

香奈はすぐそこのカーブを曲がって見えなくなるまで見送り軽トラが見えなくなってからネコ車をよいしょと持ち上げおばぁちゃんの畑までの緩やかな坂をよろよろと登った。