『お兄ちゃんが消えたの』



鳳紀が消えた蒲公英園で、千晶は何回も何回も自殺未遂を犯した。

何度も救急車に運ばれ、そのたびに山本先生に励まされた。


『もう少しだから』と。


千晶は手に包帯を巻いていた。

『お兄ちゃんが消えた』


しきりにそう言う千晶を宥めたかった。

もう少しだから、なんて千晶は満足しない。


どうしようか迷って、俺は言った。


『俺は消えないから』


しばし、目をぼんやりとさせて。

『…千晶が施設嫌だって言ったから、お兄ちゃんは逃げ出そうとしたんだ』


だから、死んだんだ。


そう言いたげだった彼女を、満足させたかった。


『違う、鳳紀に好きな人ができたからだ』


お前のせいって考えないで。

そう言いたくて、追い討ちをかけるように続けたのだ


『お兄ちゃんに、好きな人ができたからお兄ちゃんは死んだの?』

『そうだ』


『陽も千晶以外を愛したら、死んじゃう?』

『…え?』

『それは嫌だ、すっごく』

『千晶から消えないってば』

『…もし、陽が死んじゃうんなら、千晶が殺すね?お兄ちゃんみたいに消えちゃわないように、しっかり千晶がつなぎ止める』

『千晶はそれがいいの?』


『うん。陽が好き、陽が大事、だから――』


千晶は好き。

千晶は大事。


だから、俺はそれに答えなきゃならない。


それから俺らは始まったのだ。



『殺せばいい。

俺は千晶以外を愛さないから』