俺はその日の夕方、礼奈の家を訪れた。

 敏樹は彼女とデートで家にはいない。
 邪魔者のいない間に、礼奈と仲直りするチャンスだ。

 玄関のチャイムを鳴らすと、暫くしてドアが開いた。そこには胸元の大きく開いたタンクトップにショートパンツを穿いた礼奈が立っていた。

 ――ヤ、ヤ、ヤバイ。
 礼奈って、こんなにグラマーだったっけ。

 ここまで露出した服装で会ったことがない。

 俺はどこを見たらいいんだよ。

 俺の視線は胸の谷間を避け、右往左往している。明らかに挙動不審だ。

「……創ちゃんどうしたの? 今日は約束してないよ」

 少し驚いた顔で俺を見つめた礼奈。目は兔みたいに充血していて、瞼は腫れぼったい。

「んっと……。礼奈に会いたくて。たまらなく会いたくて。自転車を走らせた」

 俺、何言ってんだ。
 こんなことで、許してもらえるわけないだろう。

「……昨日の人は、創ちゃんの彼女でしょう」

「まどか? まどかは俺の元カノだよ」

 しまった。ついポロッと暴露しちまった。
 礼奈は『元カノ』って言葉で、すでに固まってるよ。

「……元……カノ……」

 よほどショックだったらしく、そのまま礼奈は黙った。

 ……だよな。
 礼奈にはちょっと酷だったよな。

 どうして『友達』だと、誤魔化せなかったんだろう。俺はバカか。

 こうなったら、正直に話すしかない。

「まどかとは去年の三月に別れた。俺達はもう終わってるんだ。だから『元カノ』なわけで、今は友達だから」

「……ふえっ」

 礼奈の大きな目に、じわじわと涙が溢れる。

 また泣かせてしまったようだ。
 どうすれば、泣き止んでくれるんだよ。

「礼奈、俺が好きなのは礼奈だけだから」

「……噓だぁ」

 しゃくりあげて泣き始めた礼奈を、俺は両手で抱き締めた。

 こんな風に礼奈をギュッて抱きしめたのは、初めてかもしれない。いつもは礼奈にギュッと抱き着かれる立場だから。

 俺は小さな子供を宥めるように、礼奈の頭を優しく撫でる。