「このアーティストさんの公演日決まったから、後でスケジュール調整しておいてね」


「わかりました。青山先輩……」


「ん?」


「あんまり無理しないでくださいね」


 あれから数週間――。


 御堂の専属を降ろされた奏は、それでも湧いて出てくる仕事に忙殺されるような毎日を送っていた。おかげで余計なことを考えないで済むと思えば苦にはならない。けれど、いくら気張っていても、ちょっとした隙に憂鬱な表情を浮かべてしまう。



 あの日、テラスに一人残された奏は自分でもわからないくらいの間、ただ呆然として動くことができなかった。けれど、なぜか悲しいはずなのに不思議と涙は出てこなかった。


(もう、御堂さんのために泣く涙は枯れちゃったよ……)


 御堂に連絡を取ろうとして、何度も携帯を手にしてはバッグに押し込んだ。御堂のことを考えれば考えるほど胸が苦しくて切ない気持ちに苛まれた。


(御堂さんに会いたい……)


 御堂に向けられた氷塊のような視線を思い出すと会いたい気持ちも怯んでしまう。けれど、奏はひとつ気になることがあった。


 別れ際に向けられた冷たい視線の中に、やりきれない深い悲しみのようなものを感じた。


 言葉にして伝えたいのに伝えられない何か――。