僕が淳ちゃんを好きになったきっかけ。
それは他愛もないこと。
僕達がまだ高校一年生の頃の話。
あまり自分では言いたくないけど、顔が良い方らしく、女子にキャーキャー騒がれていた。
うるさいと思いながら廊下を歩いていると、淳ちゃんと貴也、その二人を囲っている女子軍団。
あーあ、あの人たちもか。
可哀相に。
僕は興味がなかった。
ただ、女子に囲まれてはしゃいでるバカと、クールに女子の相手をする美男としか見てなかった。
気になっていたのは、淳ちゃんが男とは思えない華奢な体をしているという事。
体育祭では活躍してたし、体は鍛えているようだけど、やっぱり男の子にはない柔らかさがあった。
ある日、女子から手作りクッキーを貰っているのを見ていた。
ありがとうと言って受け取る淳ちゃん。
女子はもちろん喜んだ。
その女子が去っていった後、クッキーのラッピングを外し、ちゃんと食べていた淳ちゃんにまず感動。
まず、僕の場合興味ない子からは受取もしないから。
で、食べたあと、淳ちゃんはすごく優しい顔で微笑んでたんだ。
あのクールでイケメンな淳ちゃんが、ほんっとに嬉しそうな、でもどこか切なげな綺麗な顔で笑ってた。
それが好きになったきっかけ。
すっごく単純だよね!
一目惚れってやつ?
あれ、一目では惚れてないな…………
で、アホな貴也君が、女なのにモテモテだねーって言ってるのを聞いて、告白。
まぁこんな感じ。
最初は嫌われたかなって思って淳ちゃんの所に行ったら、全然避けたりしないからビックリ。
惚れなおしたよ、淳ちゃん。
僕のお話はこれで終わり!
淳side
俺は結局テントの中で頬を擦る涼太を背に寝た。
え?
何で涼太が頬を擦ってるかって?
そんなの、俺が綺麗な右ストレートをお見舞いしてやったから。
翌日─
「あ、おはよう淳!」
「おはよう優」
俺はいつもの王子スマイルを向ける。
さて、テントをたたんで帰る準備でもしますか………
「じゅーんっちゃん!」
「ぅお!!」
勢い良く、いや、元気よく?俺の背中に抱きついてきたのはもちろん、涼太。
「ちょ、谷君どうしたの!?そのほっぺ!」
「あぁ…これ?」
すると涼太が俺をチラッと見てから…
「淳ちゃんの愛のムチってやつ?」
俺は肘で涼太の腹に鳩尾(ミゾオチ)。
ドスッと鈍い音。
「じ、淳ちゃんの愛って……ちょー痛い…」
「淳ー、彼氏には優しくしろよー?」
にやけながら言ってくる貴也。
うん、ムカツク。
「あぁ、貴也。いたんだ、気付かなかった。しかも、涼太別に彼氏じゃねーし。」
「は?だってお前ら昨日海辺でイチャイチャしてたじゃねぇか。ま、男同士にしか見えなかったけど。」
「……………………勝手に言っとけカス。」
「まーた淳ちゃん口悪くなってる!そんなに僕にチューされたいわけ!?」
「んなわけねーだろ死ね」
「え、何?淳、あなた言葉遣い悪くしたらチューされるの?」
俺は涼太が作った変なルールを説明した。
「淳も気の毒だよなー!」
くそ。
ケラケラ笑いやがってー。
まーじいらつくぞこれ。
ムスッとしながら帰る準備を淡々と進める。
「淳たらー!可愛いんだからっ」
そう言って俺のほっぺにチュッとしたのは涼太………じゃ、なくて優。
って、優!?
「や、やめろよ優。お前一応彼氏いるし、俺見た目男だから誤解されるぞ?」
「そんなのいいわよ別に。淳は女の子なんだからっ」
キャハッと可愛く言うのはいいが、貴也が俺には?的なオーラ放ってるからやめてくれ。
さて。
帰る準備は整った。
「みなのしゅう!かえるぞ!」
と、ノリノリでいうバカ。
置いてこ。
家に帰ると母さんが珍しく優雅にコーヒーを飲んでいた。
「ただいま。母さん、仕事は?」
「おかえりー!淳!寂しかったぁ!仕事は今日休みなのよー♡」
「まじ?やったじゃん!」
「ねー、淳。何か良いことあったでしょ」
すごく自信満々に言ってくる母さん。
え、何。
俺的にこのキャンプ悲惨なことばっかだったんだけど…………
あ!
あれを伝えねば!!
「母さん………」
罰が悪そうに切り出す。
「なに?」
俺は今まで言いそびれていた事を伝える。
涼太に告白されたこと。
それから涼太が輪の中に入ったこと。
毎日抱きつかれてること。
女だと貴也以外の2人にバレたこと。
キャンプでいろいろあったこと。
いっぱいいーっぱい喋った。
母さんには聞いて欲しかったんだ。
俺が体験した全てを。
キスのことはさすがに言えん!!
「………というハプニングがございまして……」
「淳、涼太君のこと好きでしょ」
またまた自信ありげに言う。
っておい。
俺が涼太を好き!?
は!?
いつどのタイミングで好きになったよ俺!!
「か、母さん…何言ってるのかな?」
「だって淳たら、涼太君の話ばっかだし、涼太君のこと話してる時が一番楽しそうなんだもの」
ドキッと俺の胸がなったと思った瞬間、俺は母さんの腕の中にいた。
「ちょ、母さん。何して………」
「ごめんね、淳。母さんが男の子の格好させちゃったせいで、まともに恋なんかできないんじゃないかって心配してたの。」
母さんの腕はすごく暖かかった。
何年ぶりだろ………こんな風に、母さんに抱きしめられたの。
すごく落ちつく。
─俺はしばらく、母さんの腕の中にいた─
キャンプから約2週間が経過。
ピピピピッ
朝、めざましの音。
夏休みなのに早起きする俺、偉すぎるよね。
俺は朝飯を作って母さんを起こす。
「母さん、朝だよ。起きて」
「あと10分……………」
はぁ。
ホントにアンタって人は………
「ガキかっ!」
ガバ!っと母さんの布団をひっくり返す。
「ったぁ…もうちょっと優しく起こしてよね!!」
「最初は優しくしてあげたでしょ?早くしないと仕事遅れるよ?」
「はいはい、分かってますよー」
そう言ってそれぞれ自分の支度を済ませる。
母さんは仕事に、俺はバイトに行く。
「じゃぁ母さん、仕事がんばってね」
「淳もね!無理しちゃダメよ!今日もイケメンねっ♡」
「はいはい。じゃ、行ってきまーす。」
「行ってらっしゃーい!」
バタン。
ドアを閉める。
今日は貴也は休みだっけ?
どうせ優のとこに居るんだろうな。
「おはよーございまーす。」
「おぉ!淳君おはよう!今日も女性人の心を鷲掴みにしてくれよ!」
この若いお兄さん?おじさん?は俺が働いてるレストランの店長。
顔はー…………たぶん良い方なはず…なんだよなぁ。
でも何故かもてない。
ま、店長のことはどうでもいいよね。
俺は服を着替え接客できるよう準備を整える。
よし、イケメンだ。
「いらっしゃいませ」
王子スマイル満載。
疲れるんじゃない?って言われたことあるけど、喜んでくれてる人見るとそうでもない。
素直に嬉しくなるから。
俺はいつも通り接客を進めていた。
夕方頃、夕飯を食べに来るお客様でいっぱいになってた時、あの女の子と出会った。
俺が注文を受けていると、後ろのテーブルから女子の声がした。
「や、やめてください!離して!」
なーんかベタな展開になりそうだな……
はい、予想的中ね。
酔ったオッサンが女の子に絡んでましたー。
店長は俺に目で止めろと合図をする。
そんなことされなくても止めるっつの。
「お客様、申し訳ありません。店内でのそのような行為はお控えください。」
「おめぇには関係ねーだろ!店員は客にペコペコ頭下げときゃいいんだよ!」
なぁに言ってんだこのくそオヤジ。
早く手離してやれよ。
「モラルがない方は当店、受付しておりません。お引取り願います」
ニコッと笑い、でも目はその男を睨みつける。
そして女の子の手を掴んでいる男の手首を力いっぱいに握りしめ離す。
男はフンッと言って店を出て行った。
「お客様、大丈夫ですか?」
その子の顔をよく見ると、とても綺麗な顔立ちをしていた。
「あ、ありがとうございました。」
「いえ。何もなくて本当に良かったです。また何かありましたら店員をいつでもお呼びください」
そしてその日のバイトが終わり、今は賄いを食べている。
「淳君!今日の君かっこ良かったよ!」
ニカッと笑いながらいう店長。
「まぁ、確実に店長と貴也よりはかっこいいと自覚してますから」
俺もニカッとしながら返答。
「まーったく腹立つねー君」
「店長が勝手に腹立ってるだけじゃないですか?」
「はぁー!店長にその口のききかた!良くないよ!?
」
「今更何を言ってるんですか………」
まったく、貴也とどことなく似てるなこの人。
歳は29歳と、店長にしては若い方だ。
髪の毛は少し赤に近い茶色でワックスとアイロンで適度盛りしてある。
その適度盛りの上手さがそこら辺の高校生とは全然違う。
だからカッコイイはず…なんだよなぁ。
何でこの人モテないんだろ。
なーんか残念なんだよなぁ。
俺はしばらく店長を見ていた。
すると…
「ん?何だ、そんなに見て。俺の顔に何か付いてる!?」
どこだ!?と自分の顔を触り始める店長。
んー。
こういうアホっぽいところがダメなのかな?
「っていうか店長。俺顔に何か付いてるなんて、1言も言ってないんですけど」
「なっ!だってさ、そんな顔ジロジロ見られたら誰だってそう思うだろ!?」
「俺の場合、皆オレの顔に見とれてるんで、そんなこと思わないです。」
「えぇ!ちょーうぜー!!」
「店長いちいち反応でかすぎてうざいです。だからモテないんじゃ…」
「だー!!それ以上言うんじゃない!この自惚れ王子!」
「はいはい。分かったんでちょっと静かにしてください。」
俺が酷いこと言っても怒らない店長は優しいと思う。
はぁ。
貴也に似てるっていうのもあるんだけどなぁ。
「ふぅ、帰るか。お疲れ様でしましたー。」
「おう、おつかれ!またね、淳君!」
「また」
貴也に似てるから、俺は自然に笑顔になれる。
帰宅時。
俺が家の鍵を開けようとすると、隣の部屋から貴也が出てきた。
「あれ、淳。バイトだったの?」
「よっ。あぁ、今帰った。」
「そっか…………」
え、何。
何かこいつ、元気ないんですけど。
キモい……………
「なぁ、淳…。俺って、優の隣にいても浮かないかな?」
「は?」
何言ってんだこいつ。
何で浮くんだ。
ってか、何?
だからつまり、自分の顔面偏差値を気にしてるってことか。
「何で?」
「ゆ、優が………美人すぎる………」
「ぷっはは!!」
「なっ!人が真剣に悩んでんのにぃ!」
「わりわり!貴也がこんなに悩むなんて、優は幸せ者だな」
「俺、優大好きだけど、そんなにかっこよくないし、発想も馬鹿だからさ。優は俺が隣で恥ずかしくないかな?」
「んなこと俺に聞かれてもわかんねーよ。」
「だよな……………」
ったく。
「まぁ、別に、恥ずかしくないんじゃね?優はお前のそういうところもひっくるめて好きになったんだろうし、お前がバカなのはずっと一緒にいればわかるし。それでも優はお前を選んだんだ。だからさ、そんなくだらないこと考えてないで、優の傍居てやれよ。あ、あと、お前は別に、かっこ悪くなんかねーよ。」