しばらくの沈黙。
俺は耐えられなくなり口を開いた。

「えっと…俺、もう行っていいかな??」

少し困った顔で言う。

「実はね、僕、淳ちゃんのこと好きなんだよね」

「そっかー、ありがとう………ん?」

すげー今スルーしちゃったけどさ、今こいつ、俺のこと淳ちゃんて言った?
好きって言った?
あれれれれれれ???
しかもこいつ、ちょーにっこりしながら言いやがった。
この黒髪爽やか王子は何を考えているのかな???

「えっとー、友達としてってことでいいんだよね?」


「あー…淳ちゃん、僕は恋愛対象として好きなんだけど」


おーっと?
お?
うーんと…
また淳ちゃんて呼んだね。
しかも俺に恋愛対象としてとか言ったね。

「………………は!?」

「僕、変なこと言ったかな??」

「うん、結構な度合いで言ったかな…」

め、目眩がする………
こいつは俺のこと男として見てるんだよな!?

「た、谷?俺、男だよ?」

「まぁ細かいことは気にしないでっまたね」

そう言って黒髪爽やか王子は俺の頬にチュッとキスをして帰った…………

っておい!!
何冷静に状況説明してんだ俺!
え、え!?

何だこれー!!!!


俺はトボトボと歩き教室に戻った。


「何だよ淳ー!おっせーぞ!」

貴也の顔を見た瞬間一気に体の力が抜け、その場に崩れ落ちる。

「お、おい!淳!?大丈夫かよ!」

「た、たか、貴也………俺、男に見えるよね??」

「……………は?何、いきなり…」

苦笑いで言う貴也と、キスをされた頬を触る俺。


「と、とりあえず立てるか?」

「お、おう…」

俺は貴也に支えてもらいながらも床から立った。
すると、ガラ!っと教室のドアが開く音。

担任の藤堂だった。

「何だお前らー、まだ残ってたのか?用がないならさっさと帰れよー?」

俺は即座に体制を直し、臨機応変する。

「すみません先生。すぐ帰りますので」

王子スマイルを向けると藤堂は顔を少し赤くし出て行った。
あ、勘違いしないでね。
藤堂はお、と、こ!


って、こんなん言ってる余裕があるとは……
自分でもビックリだ…………


「淳、お前は…一応は女だぞ?」

「分かってるけど……見た目の話」

「まぁ、別に、少し声が高いぐらいで、あんまり女には見えねーけどな」

「はぁ………とりあえず、帰ろうぜ…」

「お、おう……」


帰り道、貴也がいくら変なことを言っても、変な仕草をしても俺はツッコミを入れることは無かった。
それが逆に気持ち悪かったんだろう。
貴也は心配してくれた。

「じゃぁな貴也。また明日。」

「あ、あぁ………」

俺は部屋に入り鞄をそこら辺に置いた。

ん?
机の上に置き手紙?

『淳、お帰り。母さん今日は仕事で帰れそうにありません。なので家のことはきちんとやっておくこと。あ、ちなみに洗濯物はたたんでおきました。母より』


「母さん大丈夫かな………」

あー…
今日バイトなくて良かった…………
暇だしな、色々考えたいし、どっか食いに行くか。

俺はドアを開け、外に出た。

『…あ…』

俺はたぶん今すごくまぬけな表情をしているだろう。
だって、貴也も同じタイミングで出てきたから……

「淳、出かけるのか?」

「あぁ、今日母さん帰ってこないし、外で飯くおうと思って…」

「実は俺もなんだよ!母ちゃんが親父のところに行くって置き手紙」

へへっと笑いながら置き手紙であろう紙をピロピロっと見せる貴也。

「貴也…」

「ん?」

「飯、一緒に食おうぜ」

「え……………いやいいけどさ、え?」

心配そうな顔で貴也は俺の額に手を当て、自分と比べた。

「んだよ、やめろ変態。」

「いや、だっていつもなら、飯一緒に食わせてやってもいいけど?みたいな!上からじゃん!?」

「今日はのらねーの」

「ふーん。何かあったのか?」


ふぅっとひと息ついてから俺は貴也に谷の事を話した。


「ったく、あんの黒髪爽やかドアホ王子…」


「……………ぷっククッ」


「は、何笑ってんの」

「だって!男に!男にキスって!!ぶっはは!」

「下品な笑い方してんじゃねーよ、アホ貴也」

「でもさ、お前も悩んだりするんだな!」

「はぁ?どーゆー意味?」

「お前も女だな」

にししっと笑って、貴也は俺の頭をぐじゃっとした。

「触んな。バカが移る。あと、ハゲる。」

「てんめー!ほんっと可愛くねーな!!」

俺は貴也の胸元を掴み自分のところへグッと引きつけ寄せた。

「な、何だよ………」

「可愛さなんて求めてねーよ」

いたずらに笑う俺。
少し貴也の目元が緩んだ。

「あーはいはい。んで、夕飯何食うんだよ?」

「ラーメン食いてーなー」

「お前はおっさんか!!」

「んー、じゃぁ、もー俺ん家で何か作るか?」

「いいね!賛成!お前料理上手いってバイト先でも結構有名だしな!」

「俺が作るなんていつ言った?お前が作るんだよ」

「………へ?」


あぁ。
こんな会話をずっとしていたい。
これから先何があろうと、貴也だけは、俺の友達でいてほしい。



俺と貴也のゴタゴタがあってからもう一週間。
ピピピピッと目覚ましの音。

「んぅ…………うっせーなー」

カチッと目覚しを止め、朝飯を母さんの分も作って置いておく。
サランラップかけなきゃ…

あー、今日も俺の料理旨いなー。

そんなことを思いながら支度をし始める。
よし、今日もイケメン。


家を出て鍵をかける。



「淳!はよー!」

「おぉ、貴也。今日も鬱陶しいな」

いつもよりにこやかに言う。

「うっさ!」

「さっさと行くぞー」

登校し、いつもと違うのは貴也と廊下で別れず、同じクラスに入ること。

ん?何でかって?
それはね、ちょっと前の出来事を思い出してもらえれば分かるよ。
そう。
貴也は優と付き合ってるから、空いてる時間はずっと優がいる俺のクラスへ来る。


「淳ちゃん、おはよう」

あぁ、いつもと違うこと、まだあった…………

「おはよう谷」

俺に告白してきた谷 涼太。
あの日から俺は何故かこいつに付きまとわれている。


「淳ちゃん何で下の名前で呼んでくれないの??」

「ねぇ谷?うざいからあっち行ってほしいな」

ニコニコしながら言う。

「谷君はホントに淳のこと好きねー」

こっちにもニッコニコしながら言う美女。

「うんっ大好きだよ」

「あー……………ははははは」

くっそこの黒髪爽やかど変態王子…
何考えてんだよ…

だいたい優!
お前は勘違いをしている!
こいつは俺を恋愛対象として好きなんだぞ!?
お前が思ってる友情の好きとかじゃねーんだよ!!!

言いたい…
これを優に今すぐぶちまけたい!!!


「谷、どうしたら俺からどいてくれるの?」

「んー、下の名前で呼んでくれたら!」

「涼太、ハウス!」

俺は即名前で呼ぶ。

「は、ハウスって、僕犬じゃないよ?」

「あーもー分かったから!お前でかいんだよ!暑苦しい!!!」

「ま、まぁ、今夏だからね、谷君どんまい」

「どいてやれよ谷ー」

貴也が谷に話しかけると必ず谷はこう反応する。

「この人誰。」

プイッとそっぽを向いて俺にまたしがみつく。

「谷…じゃなくて、涼太、頼むから貴也と仲良くしてくれよ…………」

と、俺が行ったところでHRの前の予令がなった。

「じゃぁ、俺行くな、優。浮気すんなよ?」

「うん、また後でね」

このカップルのノリで何故か涼太が、

「じゃぁ僕行くね淳ちゃん、また来るからね!!浮気しないでね!!」

「黙れ変態早くいけ」

俺はニッコニコの笑顔で手を振った。
あー、辛い。
何だあれ。

「ふふっホント、仲がいいのねっ」

「やめてくれ…まじ意味わからないから…」

「まぁ、いいじゃない?あ、1時間目体育だって」

「知ってる。あー、こんな暑苦しいのに体育とか………」



着替えはどうするかっていうとね、
制服の下に着とけばいいんだよ、体育がある日だけ。


俺は着替えてから体育館に向かった。


今日の体育はバスケか………
ま、顔良し、運動良し、勉強良しの俺には楽勝だね。


『淳くーん!頑張れー!!』

『シュート決めちゃえー!!』

何故か女子は自分たちの体育そっちのけで俺の応援をしている。
って、先生も応援してるよ…………

俺は軽々とシュート。
あー、母さんに言われて体鍛えといて良かったなー…

母さんありがとーう。