ケータイ小説 野いちご

繋いだ手を

いざ。


「おっはよう、ございまぁーす」



と軽い口調で頭を下げたのは、黒いスーツを着た線の細い男の子。



顔が見えなくなったのは、ほんの一瞬。
すぐに顔を上げて白い歯を覗かせる。どちらかというと色白で色素の薄い顔に、真ん丸い目をきらきら輝かせて。



爽やかで、吸い込まれそうな笑顔。
きゅうっと胸が締め付けられそうになる。



でも、すぐに振り払った。
私を舐めているのかもしれないと思ったから。



だって彼の挨拶は、あまりにも不自然。最後の『ございます』は、どう聴いても慌てて付け加えられたとしか思えない。



きっと彼は、年が変わらない私を自分と同じ新入社員だと思っていたに違いない。私の左腕につけた腕章を見て先輩社員だと気づいた彼は、慌てて『ございます』と付け加えたのだ。



そうでなければ、絶対にタメ口で話しかけていたはず。



先輩社員だと思われていないことが悔しいけど、仕方ないのだろう。



私は入社二年目。
去年の今頃、私は彼と同じ新入社員としてここに居たのだから。





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