──次の日、アリシアと少年はグランドピアノを前にして楽譜をめくる。

「ピアノを触ったことは?」

「ありません」

 答えた少年にアリシアが見せた楽譜は、十歳までの子どもが一本の指でも弾けるレベルのものだ。

「基本ならデータを見ました。その楽譜では私はすぐに終ってしまいます」

 少し困ったようにアリシアを見上げる。

「そ、そう」

 アリシアは慌ててその楽譜を仕舞い、別の楽譜を取り出した。

 しかし、それは彼女がベリルの勉強の合間に覚えようと思っていたもので、とても子どもが弾けるようなレベルじゃない。