「やめ。」
教室に若い男性教師の声が響いた。
「以上で試験はすべて終了です。静かに退室してください。」
『入試会場』と書かれた紙を見て
「落ちたかもな…。」
思わずそう呟いた。
落ちたらどうしようか。
案外、そんなことを落ち着いて考えられる自分がおかしかった。
そんな時だった。
「心愛ー?」
『ここあ』?犬か?
そう思ったのに、意外にもその言葉に近くの女が返事をした。
「ごめん!今行く!」
心愛と呼ばれた女は、少し背の低い童顔の女だった。
黒髪ロングのストレートヘアをさらりとなびかせて走る彼女を俺はただ眺めていた。