あれから1ヶ月。


桐生さんがついに
記録更新をしたという噂が広がった。



今まで俺の指導医として挑戦した医者たちが、
代わる代わる俺のところに来て、
ジロジロ観察していくんだ。



「なんだよ」


「やっぱり、中身は変わってないな」


「こわ……」


「桐生医師、どうやって手懐けたんだ?」


「手懐けられてねぇよ!うっせぇな」





みんなが不思議がった。


あの神崎が大人しくついていってる。

あの神崎が反抗しない。


“あの”って何なんだよ。


聞こえてるっつぅの。









ここ1ヶ月で、あの人について分ったことが少しある。



まず、怒らねぇ。


他の医者が普通は怒るようなことを、
俺がどんなに言っても、全然怒らねぇ。


別に俺は怒鳴られるのとか説教とかは
なんとも思わねぇし、ただうるせぇなって程度で済むのに、


こうしてこれは怒るだろうってとこで微笑まれると、
逆に恐ろしくて……。



「神崎医師。回診の時間です」


「あ、はい」



そして、
絶対に俺の存在を無下にしたりしない。


自分の方が偉いはずなのに、丁重に扱ってくれる。


今までそんな扱い方されなかったから、
なんか落ちつかねぇんだよなぁ……。


そんでもって、桐生さんの隣を歩くと、
ふんわりと煙草のにおいがする。


喫煙者には見えないけど、
実はヘビースモーカーだって噂もある。




そしてもう一つ。


手首につけてるリストバンドが気になること。


白衣の女には似つかないような、
ちゃちなリストバンド。


どんな時でも、桐生さんはとらなかった。


手術室に入るときは外すらしいけど、
俺は手術室にまだ入ったことがなく、実際のところはわからない。




つまりは何かと謎の多い女。




俺の桐生さんの印象はこんな感じだった。