☆
地下にある桐生さんの部屋に向かう。
階段を一歩ずつ降りていくと、
部屋の明かりがついていた。
桐生さん、いんのかな?
仕事中だったら邪魔しちゃ悪いよな。
俺は恐る恐るドアに手をかけ、
静かにそのドアを開けた。
「あ?」
部屋の中は電気がついていて、
音楽が微かに流れていた。
だけど……。
「寝てる……?」
桐生さんは机の上に伏せて眠っていた。
仕事中に疲れて眠ってしまったのか、
桐生さんの手にはペンが握られていて、
机の上にはずらりと文字が並んだ書類が散らばっていた。
俺はその部屋にゆっくりと入った。
寝てんのか。
ちょうどいいじゃん。
早くこれを元に戻して帰ろう。
そう思ったんだけど……。
「この曲……」
微かに小音量で流れているその音楽は、
俺が聴いたことのないような、ギターソロだった。
歌詞も何もない、
ただギターの音だけがメロディーを奏でる。
俺はその音楽に聴き入ってしまった。
そこらで聴くギターの音とは何かが違う、
目を閉じたらそのまま眠れそうな、そんな響きの音がした。
桐生さんって、やっぱしバンドが好きなのかな?
なんか、全然そんな感じがしないんだけど。
こういうびしっとした人ってさ、
もっとこう……なんつぅのかな?
音楽っつったらクラシックとか?
洋楽とか?
あんましジャカジャカしたのは
似合わない感じがするんだよな。
「すんません。失礼しまーす」
そっと声をかけると、
CDを元の棚に戻そうとした。
そんな時だったんだ。
「行かないで……」