家に着くなり、
鍵が開いていることに気付き、俺は一瞬固まった。



香奈が来てる……。


あまり音を立てないように
静かにドアを開け、靴を脱いだ。


玄関にはヒールの高い靴が、
ちょこんと並べてあった。


間違いない。


香奈の靴だ。


リビングに行くと、
香奈がヘッドフォンをして、勝手に音楽を聴いていた。



「おい、香奈」


「…………」


「こら!聞こえてんのか!?」



何度声をかけても応答がない香奈に苛立ち、
俺はヘッドフォンを取り上げた。


少し驚いたように俺を見上げた香奈は
しばらくしてから怖い顔で俺を睨みつけた。


「裕翔!どうして連絡くれないのよ!?」


あー。ほら。


来たよ。
このパターン。


俺はカバンを床に置いてベッドの上にダイブした。


疲れてんだからさ、こっちは。


女のヒステリックに構ってる暇はないんだっつの!!



「悪い。仕事だったんだよ」


「いっつもそうじゃない!!
 仕事ばっかりで全然あたしのことはほったらかしで……。
 本当にあたしのこと好きなの!?ねぇ、きいてる!?」



「静かにしろよ。仕事忙しいの分かってるって
 この間は言ってただろ!?」


「確かに言ったけど、
 それとこれとは話がちが……あら?」


香奈が途中で言いかけて、
素っ頓狂な声をあげた。