☆
春だ。
桜は満開。
広大な空は青く、風が木々を揺らめかす。
それなのに。
俺は必死に逃げ回っていた。
この白く大きな箱の中を。
「神崎、今日という今日は逃がさんからな!?」
「すんません。マジで、腹イタなんすよー」
「ふざけるな!!嘘なんだろ。来い!!」
やめろ。
俺にさわるな。
どいつもこいつもうるせぇな。
俺は誰の指図も受けねぇんだよ!!
「おいこら。話を聞け。
今日からお前の指導医は俺じゃなくて……
あ、危ない!!」
「は?」
指導医“だった”医者が、俺にそう言いかけて叫ぶ。
俺は小さな衝撃に襲われ、よろめいた。
近くの手すりに掴まって体勢を直す。
何だ?
誰かとぶつかった!?
「いってぇな!
どこみて歩いてんだよ!?気をつけ……」
悪態をついてその相手を睨みつけると、
言い終わらないうちに口を噤んだ。
目の前にいたのは、沢山の書類を持った
“白衣を着た”女だったから。