春だ。


桜は満開。


広大な空は青く、風が木々を揺らめかす。


それなのに。
俺は必死に逃げ回っていた。


この白く大きな箱の中を。




「神崎、今日という今日は逃がさんからな!?」


「すんません。マジで、腹イタなんすよー」


「ふざけるな!!嘘なんだろ。来い!!」





やめろ。

俺にさわるな。


どいつもこいつもうるせぇな。


俺は誰の指図も受けねぇんだよ!!



「おいこら。話を聞け。
 今日からお前の指導医は俺じゃなくて……
 あ、危ない!!」


「は?」



指導医“だった”医者が、俺にそう言いかけて叫ぶ。


俺は小さな衝撃に襲われ、よろめいた。


近くの手すりに掴まって体勢を直す。




何だ?


誰かとぶつかった!?



「いってぇな!
 どこみて歩いてんだよ!?気をつけ……」






悪態をついてその相手を睨みつけると、
言い終わらないうちに口を噤んだ。




目の前にいたのは、沢山の書類を持った
“白衣を着た”女だったから。