どれくらい経っただろう?

迎えが来るみたいなので、もう大丈夫ですって言ったけど、親切な男の人は、



「じゃあ、その人が来るまで、ね」



と、けっきょく、ずっとわたしに付き合ってくれた。



「ハル!」



俯いて目を閉じていると、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。



「大丈夫か!?」



その声に顔を上げて目を開けると、カナの心配そうな顔が目の前にあった。

まだ、少し霞んでいるけど、カナの顔がちゃんと見えた。



「……もう、大丈夫」



貧血もあったけど、どちらかというと、ただの乗り物酔いだったみたいで、揺れない場所に座って休んでいる間に、大分楽になった。



うっすらとではあったけど、何とか笑みを見せると、カナがホウッとため息を吐いた。



「……よかった」



カナの心底安心した……という感じのつぶやきを聞くと、

本当に悪いことをしたな、と思う。



カナは、わたしの無事を確かめるように、わたしの頭をギュッと抱きしめる。



恥ずかしいから、やめて、って思ったけど、

言えなかった。



それからカナは、隣の人に頭を下げた。



「どうも。お世話をおかけしました」



ようやく見えるようになった、その人は、5つ上のお兄ちゃんと同じくらい、たぶん、大学生くらいの男性だった。

優しそうなその人は、



「いや、ボクは何もしていないから」



と、にっこり笑うと、



「じゃ、お大事に」



と軽く手を上げ、電車待ちの列に向かった。