『僕には君が必要なんだ』

 彼にそんな事を言われてから、一週間程が過ぎた。
 てっきり愛の告白をされたものだと思っていたが、どうやらそれは彼女の見当違いの様だった。

 良く晴れた休日の午後。目の前で彼女が作成した資料に目を通している彼は、今まで通りのクライアントの顔だ。いつもは彼の会社まで出向くのが、今日は休日だからかめずらしく外で落ち合う事となった。

 スーツ姿の彼も素敵だが、今日のようにカジュアルな装いの彼はいつもよりグッと身近に感じる。普段は綺麗に整えられている髪は無造作に下ろされ、長い前髪の隙間から見え隠れする伏せた睫毛が時折揺れる。いつもはネクタイで隠れていて見る事の無かった喉元は惜しげもなくさらされ、アイスコーヒーを口にしたときそれが上下するのを見る度、女性にはない男の色気を感じた。