千尋と勇人。

院長の二人の息子。

だが……
この二人の息子のうちの一人が
どうにも気になっちまう。


平然とした顔で
毎日過ごしているように見せかけて
心の奥底では、
何かに怯えているようで……。


影を抱いているように気がして。



昔から……こうなんだよ。
オレは。


海斗の時もそうだが……
何故か、そう言うサインを敏感にキャッチしちまう。


そんな背景もあって、
あの家から引き離すのも名目ってわけじゃないが、
ついつい、何か野暮用が出来たときは
勇人をかりだす。




今日も……退院する海斗を家まで送ろうとしたものの、
運転経験の浅い俺の車には
乗りたくないとかほざきやがって
アイツを問答無用で召喚。


しかも……勇人と来たら、
断ることをしない。


まぁ、その辺がうまく作用したもんで
今回はオレの言いなり的に
動いてくれたんだろうけどな。



海斗の自宅前にオレらを送り届けて
約一時間。

何処に行ったとも知らぬまま、
出掛けて、用事を済ませて再び
迎えに来たのは一時間後。

店の中に呼びに来るでもなく、
気が付いて外に出るまで、
たた待ち続けたアイツ。

窓から覗き込んだときに、
アイツの黒のクラウンが居たのを確認した瞬間
焦った焦った。

そのままバタバタで、
海斗に挨拶して、店から飛び出して
クラウンの窓をコンコンと叩くと
勇人は、怒ったわけでもなく
ただ車のドアを開けた。
俺が乗り込んで、
ドアが閉まったのを確認して、
ゆっくりと車は動き出す。

動き出すものの……
車内には沈黙が広がるばかり。

車の中で流れるのは……
ジョン・レノンか……。

オレには、
子守唄だな……。