夏。

太陽が真上に近づく時間。

お世話になった、
居酒屋の二階から、
ゆっくりと荷物を運び出す。

荷物と言っても、
洋服の詰まった衣装ケースと、
医学書の詰まった段ボール。

そして……
亡き両親の位牌。



「嵩継、もう行くのか?」

「はい」




オレの名は、
安田嵩継(やすだたかつぐ)。

高校を卒業して、
医学部に進学した際、
生活をするためにと
面接を受けた居酒屋を
バイト先に選んだ。


医大に通いながらの、
バイト生活は、
厳しいものではあったけど
生きていくためには
仕方がないと諦めた。


最初の頃は、
規則正しく入れていたシフトも、
何時しか、
遅刻することが多くなり
いつ、首を切られてもおかしくないのに、
この居酒屋の夫婦はオレを
切り捨てることはなかった。


この夫婦の協力もあって、
何とか、医学生の間の
臨床実習も終えて、
卒業試験を間近に迎えたある日、
オレの人生は変わった。