俺には、
忘れられないヤツがいる。

ソイツは、
俺の一級上の先輩で
このくだらねぇ世の中で
唯一、許せる存在だった。


俺、井津海斗(いづ かいと)。


アイツと共に
駆け抜けた一年半。

共に同じボールを
追いかけて時を刻んだ。
 
アイツの卒業式。

アイツは学校に
姿を見せなかった。


アイツの家に電話をしても、
連絡がつかない。


携帯くらい持ってろよ。

高校生なんだから。


そう毒づく俺を
余裕の笑みで交わしながら
最後まで
携帯を持つことをしなかったアイツ。


そして……
アイツの担任から聴いたんだ。


アイツの母親が過労で他界して
卒業式の今日が、お葬式。

だからアイツは
卒業式に来れなかったんだと……。



信じられない思いで、
アイツの家に駆けつけたときは、
すでにアイツの居た
アパートはもぬけの殻。


アパートの前で、
まだ小学生のアイツが可愛がってた
近所のガキが、
ずっと泣いてた。



日が落ちて、
雨が降り出すまで……
オレはガキと共に、
アイツのアパートの前で
立ち尽くした。


やがて、ガキには
家の中から父親と母親が迎えに来て、
オレもその場所に
背中を向けて歩き出した。