「さあ、見えてきましたよ。」
イルマが長屋の一番奥の扉を指して言った。

「探偵の家?」

「そうです。」
表札も何もない。言われなければ素通りしてしまう程に目立った特徴がないただの家。はっきり言ってボロい。壁や扉には隙間がたくさん開いている。

人なんか住んでいなさそうなのに。

ここに探偵がいるのか。

まあ、イメージは最悪だし、あたしが理想としていた様な探偵ではないけども。
この扉の奥に探偵がいると思うと少し興奮する。

イルマが扉をノックして中に呼びかける。
「おい、入るぞ」

「………」
中から返事は無い。

「本当に居るんですか?」

「居ます。こういう奴なんですよ。開けますよ。」
苦笑いしながらイルマは戸を明けた。