燃え盛る炎のような赤い髪。

ティアナは庭で一番高い木に登り、その腰まである長い髪を風に揺らしていた。


太い木の幹に座って裸足の足をぷらぷらさせながら、花が咲き乱れる庭園を見渡す。


いつもと変わらない景色。

蝶が飛び交い、小鳥が囀り、甘い花の香りが漂う。


そして長年をともに過ごしてきたこの庭園の花は、これまで一度も枯れることはなかった。


きっとこれから先も美しいままで咲き続けるだろう。

いつか魔法が解けるまでは。


風が吹くと、花も木も、ティアナの髪もゆるやかに揺れる。

風が乱した髪をそっと耳にかけると、木の下のほうから叫び声が聞こえてきた。


「ティアナ様、何をして……! きゃあ、裸足じゃないですか!」


栗色の髪を低い位置で二つに束ねた、侍女の恰好をした少女が木の上に登っているティアナを見て、悲鳴をあげている。

彼女はラナといい、ティアナの乳母であった女性の娘で、去年からティアナ付きの侍女としてこの庭園で暮らしている。


ティアナはむっとした顔でラナを見下ろした。


「退屈なんだもん。もうこれ以上ないってくらいに」


「だからって……、ティアナ様は王女なんですよ。たまにはおしとやかに、本を読んだり花を生けたりなさってください」


「本も花も、もう飽きたの」


ラナは木の下で葉に埋もれた本を見つけ、ため息をつきながらそれを拾いあげた。