煙草を吸えないキヨは、イノリが吸っていた銘柄の煙草を買うと部屋に焚くようになった。


イノリの匂いがすれば寂しさが半減されると思ったから…。



でも、イノリがいなくなってからの日々は、心にポッカリ穴が空いたみたいに虚しかった。




キヨはイノリが家を出てから、大学にもバイトにも行かず部屋に閉じこもっていた。





「キヨ、大丈夫?メシもろくに食ってないけど」



心配したケンがキヨの部屋の前で声をかける。

しかし返事がない。





「…キヨ、昨日大学でイノリに会ったよ。キヨがいない事を心配してたよ?イノリも寂しいんだと思う」


「…寂しいなら…何で出て行ったの?」




キヨのか細い声が聞こえたケンは部屋の中に入った。




何日かぶりに見るキヨは泣き腫らしたのがよくわかるほど、目が赤く腫れていて顔もやつれていた。

瞳にも色がない。





部屋に広がるのはイノリの匂い。


キヨは一点を見つめたまま、ずっと首を押さえている。





「キヨ?首、痛いの?」




ケンは首を押さえているキヨの手を握る。


ゆっくり手を払いのけると、キヨの首には特に異変はなかった。





「…?どうした?」


「…イノリがそばにいた印があったの。消えないように…庇ってたんだけど……消えちゃったぁ…」




キヨは腫れた目に再び痛々しく涙を浮かべた。




「…っ!!キヨ。会いに行こう?イノリの所に行こ。このままじゃキヨがキヨじゃなくなっちゃうよ」




ケンがキヨの腕を掴むと、キヨは力無く首を横に振った。