「なぁ、杏璃」
輝く夕日が
オレンジ色に私たちを明るく照らす。
けれど、これっぽっちも嬉しくなかったんだ。
「ん?」
緋色は一度深く息を吸って、
間を置くように静かに息を吐いた。
「どうして…、髪を切ったの」
弱々しくて今にも消えそうな声だった。
腰まであった栗毛色の髪の毛は
首もとが風を撫でるほど短いショートになった。
緋色が深い海の底で届かない思いを
叫んでいるように聞こえたため、
空を見上げるのを止めて、
同じく空を見上げる緋色を見た。
オレンジ色に照らされ、
今にも同じ色に染まってしまいそうだった。
瞳に光はなかった。
いつの間にか闇に吸い込まれるんじゃないかと、
思うくらい。
唇が震えるからグッと唇を噛み締めた。
「そんなの、気分転換に決まってるでしょ」
「そっか」
もう、全てを捨ててしまおうと思った。
生きてきた中で、私も緋色も、
それぞれ《欲しいもの》があった。
でも、もう無理だって、不可能だって
私も緋色も感じていた。
だから、緋色以外_____
何もいらなかった。
「君と、青い海に溺れる」
クラスで人気者の明るい女の子
泉田 杏璃(いずた あんり)
×
“不良の卯月くん”と噂される男の子
卯月 緋色(うづき ひいろ)