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  1. 27件ヒットしました

  2. おれは何度目かわからないため息をついた。

    先輩、あんたバカだよね?


    「部室で寝るなよ」


    ソファに引っくり返って、気持ちよさそうにすやすやと。

    スカート、無防備すぎ。

    おれのジャケットかけといてやったけど、そうでもしなきゃ、おれがどうにかなりそうで。


    「ん、にゃあ」


    謎の寝言も、さっきから。

    おれは過去の部誌を読んでるけど、そろそろ限界。


    「先輩、いつまで寝る気?」


    「にゃう? 朝?」


    「夕方! 襲うよ?」


    「ふぇ?」


    とろんとした寝ぼけまなこがおれを見る。

    クラッときたけど、踏みとどまる。


    「眠り姫とか白雪姫とかの王子の趣味、わかんないんだよね。

    キス奪うなら、起きてる相手じゃなきゃ意味ないじゃん」


    だから、先輩、さっさと起きてほしいんだけど?

    今日こそちゃんと“好き”って言ってもらうよ。

    そしたら、ごほうびにキスしてあげるから。

    きゅん

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  3. もうすぐ学園祭で、文芸部誌の締切も直前。

    おれはだいたい終わってるけど、先輩は必死だ。


    「先輩、クッキー食べながら書くの行儀悪い。汚れた手で部室の辞書さわるの禁止」


    「う。ゴメンナサイ」


    「おれが代わりに辞書ひこうか?」


    「えっ!?」


    「何で慌てるわけ? ヤバい単語、引こうとしてた?」


    「……セップンの漢字を……」


    接吻。

    と、先輩のノートの隅に書いてやる。


    「お礼、もらえるよね?」


    クッキー、おれもほしいんだけど?

    って意味で、先輩の机の上を指差す。


    「い、いいよ」


    先輩、盛大な勘違い。

    つまり、おれが指差したのが“接吻”だと思ったらしくて。


    頬に柔らかい感触。


    先輩のバカ、反則だ。

    抑え切れなくなるだろ?


    「接吻って、原義的に言えば、くちびる同士のキスなんだけど」


    「っ!?」


    「辞書より直接、教えてあげようか?」

    きゅん

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  4. 学園祭が近付いて、ぼくたち文芸部は、部誌のための原稿執筆で忙しい。

    とはいえ、部室で書いているのは、ぼくと後輩の2人だけだけど。


    「しかし、テーマが“恋愛”とは気が重い」


    「えーっ、先輩、恋愛物も得意でしょ?」


    ほら、この反応だから気が重いんだ。

    ぼくはそっぽを向いて皮肉を吐き出す。


    「ぼくの書く恋愛感情を、きみは平気で読むんですよね。嫉妬もしない」


    「し、しませんよ。逆に、感情移入してドキドキするし……」


    「へえ? じゃあ、きみが本当にヒロインなら、どんな展開を望みますか?」


    「えっ、す、少し強引なのがいいかな。先輩、紳士すぎるというか臆病……」


    生意気を言いかけた唇に、指先で触れる。


    「いや、ここはキスでセリフをさえぎるべきか。やってみますか?」


    余裕のあるふりが、続かない。

    指先が震えている。

    答えを聞く前に、その唇を奪ってしまいたい。

    きゅん

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  5. それは突然、聞こえてきた会話。


    「その後輩とどう接すればいいか、わからないの。

    よくできる子で、カッコいいけど、毒舌っていうか……」


    廊下を見ると、同じ文芸部の先輩だ。

    先輩がしゃべってる相手は男子で。

    悩むなよ、とか言いながら頭ぽんぽんしてる。


    イラッとした。


    「ねえ先輩、その後輩って、おれのこと?」


    「き、聞いてたの!?」


    「おれと仲良くしたいなら、何でおれに言わないの?」


    真っ赤になってる先輩の肩を抱き寄せて。

    相談役だった人に笑ってみせる。


    「この人、おれのだから、さわんないでくれる?」


    先輩、おれも困ってんだよ。

    先輩の前で素直なこと言えなくて。


    「お、おおおれのって何!?」


    「先輩、耳元でうるさいよ。

    騒がしいのイヤだから、その口ふさぐけど、いい?」


    意地悪なの、口だけなんだ。

    行動のほうが素直だって、早く気付いて。

    きゅん

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  6. 過去の文芸部誌を読んでたら、おれの好みの作風に出会った。

    作者は、おれの入学と入れ替わりで卒業した人だ。


    「この人、うまいな」


    素直な感想をつぶやくと、先輩が目を丸くした。


    「きみ、人のこと誉めるんだ」


    「は? 誉めますけど?」


    「頭がよくて文もうまくてプライド高いから、誉めるって意外な気がして」


    失礼だよ、先輩。

    おしおきしてあげようか?


    「おれはプライド高いから、自分の感性や判断にも絶対の自信を持ってる。

    いいと感じたら、いいって言います」


    「そ、そっか」


    「だから言うけど、先輩、かわいいよね」


    「はいっ!?」


    先輩の頭にぽんと手を載せて、顔を近付けて微笑んでみせる。

    一瞬で赤面しちゃうとか、ほんとに。


    「かわいいって言ってんの、あんたのこと」


    おれは正直なことしか言わないよ。

    照れ屋な先輩には、ちょうどいいおしおきでしょ?

    きゅん

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  7. 「部誌の製本、手伝ってくれてありがとね」


    先輩は顔も上げず、おれに言った。

    放課後の文芸部室には、おれと先輩の2人だけ。


    「別に。でも、先輩って、けっこう不器用?」


    先輩の手元、さっきから見てるけど、おれより作業が遅い。

    と、先輩が動きを止めた。


    「見られてると、緊張するの」


    先輩、いつもそうだよね?

    いちいちビクビクされんの、気になるんだけど。


    「おれのこと、嫌い?」


    「き、嫌いなんかじゃないよ」


    おれは製本中の部誌を机に置いた。

    先輩の正面に立っても、先輩はうつむいたままで。


    おれの気が短いって知ってる?

    言葉より先に手を出したりね。

    おれは先輩のあごに指を添えて、おれのほうを向かせた。


    「何で、おれの顔、見ないの?

    見惚れてくれてもいいんだけど?」


    おれは、先輩、あんたのこと見てる。

    だから、あんたもちゃんと、おれを見てよ。

    きゅん

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  8. 文芸部室に、好きな相手と2人きり。

    話の流れで、勢いに任せて壁ドンした。

    で。

    この先、どうしよう?


    てか、おまえさ、普段うるさいくせに。

    真っ赤になって黙り込むなよ。

    何とか言えよ。

    じゃなくて、おれが言うべき? だよな?


    「な、なあ、あの……」


    こういう場面でキザなセリフを吐くのに必要なのは?

    文才でも文章力でもなく、度胸と経験だな。

    ヤベェよ、もう。


    壁ドン。

    距離、近すぎ。

    今さら後に引けねえ。


    「あのさっ」


    ちょっとかがむ。

    視線をつかまえる。

    一生懸命な目で見つめ合って。

    そしたら、伝えたい言葉、ポロッとこぼれていった。


    「好きだ」


    言霊ってさ、あるよな。

    言葉にした想いは、その瞬間から、力を持ち始める。


    好きな気持ちが言葉になって、おれの背中を後押しして。

    目を閉じて待つおまえの唇に、おれは、そっと唇を重ねた。

    きゅん

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  9. 文芸部誌の締切直前。

    いつも筆が速いおまえが珍しく苦戦してる。

    ラストに悩んで、本棚に背中を預けて頭を抱えてて。


    「忙しかったのか?」


    「うん、今、うちに男の子が同居してて。

    いとこなんだけど」


    「は!?」


    「昨日なんて、すっごい胸キュンだったんだから!

    人生初、壁ドンされたの!」


    「な、ちょっ、おい……てか、相手、何歳?」


    「5歳! 超生意気なのがめちゃくちゃかわいくて!」


    「そういうオチかよ……」


    「もしかして妬いた?」


    うっせーよ。

    壁ドンなら、おれがやってやる。

    おれは、本棚を背にしたおまえの顔の両側に両手を突いた。


    「これが正しい壁ドンだから覚えとけ」


    「た、正しいって?」


    自分の空間に女を閉じ込めるためにやるのが、正しい壁ドンだろ。

    5歳のガキの体格じゃできねえっての。


    「逃がさねぇから」


    覚悟してろ、バカ。

    きゅん

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  10. 「ねえ、コラボしない?」


    文芸部仲間のおまえから、まさかの提案。

    いや、だって、おれは冒険物だし、おまえは恋愛物だし。


    「何で?」


    「ほ、ほら、あたし、男目線、苦手で。

    あんたも、女目線、書けないでしょ?

    コラボしたらちょうどいいし、おもしろいかなーって」


    簡単な計画書、おまえはもう作ってた。

    ストーリーは冒険物ベースで、ヒーローが魔術師、ヒロインが剣士。

    ケンカ仲間の幼なじみ同士だ。


    「おもしろそうじゃん。

    やってみっか?」


    「じゃあ、戦闘シーンの細かいとこ、よろしく。

    あたしが恋愛系のプロット作る」


    「OK」


    と、最終下校時刻の放送が鳴った。

    残念そうな顔するおまえ。

    これ、チャンスじゃん。


    「い、一緒に帰ろうぜ。

    設定、詰めたいしさ」


    おまえが、こくっとうなずいた。

    普段うるさくて強気なくせに、真っ赤で。

    反則だ、それ。

    きゅん

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  11. 文芸部が発行する部誌には人気投票がある。

    ぼくが書く男目線の小説は比較的人気があった。

    でも最近は、1学年下のもう1人の男子部員に押され気味だ。

    ため息。


    「先輩でも、順位とか気にするんですね」


    ポエムが人気のきみに笑われた。

    もう1つ、ため息。


    「ぼくは負けず嫌いなんです」


    「先輩カワイイ」


    「は?」


    きみが背伸びをして、ぼくの頭を撫でた。

    ぼくは呆気に取られる。


    「わたしは先輩のがいちばん好きですよ。先輩が書いてるんだもん」


    「フィルターがかかりすぎです」


    「フィルターかけた張本人は先輩でしょ。責任取ってください」


    責任って何だ?

    ぽかんとし続けていたら、きみは、すねたように背中を向けた。

    頭を撫でる手が離れたのが、寂しくて。


    「待って。ありがとう」


    体が勝手に動いた。

    ぼくはきみの小さな肩を、後ろからふわりと抱き寄せる。

    きゅん

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  12. 文芸部室に向かう階段を、考え事しながら上ってたおれは、最後の1段につまずいた。

    こけるのは回避したけど。


    「やっ、な、何よ!?」


    たまたま向こうから来たおまえに抱きつく形になって。

    しかも、胸めがけて顔面からダイブ。

    予想以上にクッション効いてて、鼻とか打ったけど、痛くなかった。


    「ご、ごめん、今のは事故で、ほんとごめん!」


    「バカ!」


    おれの顔ひっかいて部室に駆け込むおまえを追って、おれも部室に。

    うわ、誰もいねぇじゃん。

    おまえは、真っ赤な頬に涙目をしてる。


    「どーせ貧乳だし。

    あんたが書く小説に出てくるような巨乳美人じゃなくてスミマセンー」


    「か、関係ねぇし!

    好きな女の胸ならサイズはどうでもよくて、事故だけどさっきのは超ラッキーで!

    って、うわぁ……」


    今、おれ、コクったろ?

    最低にして盛大すぎる事故。

    時間、巻き戻れよ、マジで。

    きゅん

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  13. 文芸部室で読書をしていたぼくは、後輩の視線に気付いて目を上げた。


    「先輩、そでのボタンが取れそうです」


    そでを見ると、確かに。

    引っ張ったら、ボタンは簡単に取れた。


    「まいったな」


    「わたし、直しましょうか?」


    素直にお願いした。

    ブレザーを脱いで渡して、裁縫をする後輩を見つめる。


    「器用ですね」


    「普通ですって。

    むしろ、万能な先輩が裁縫苦手ってビックリです。

    はい、どうぞ」


    糸を切って、後輩はぼくにブレザーを差し出した。

    礼を言いながら、ぼくは後輩に背中を向ける。


    「着せてください。

    こういうの、日本男児は憧れるんです」


    「亭主関白ですか?」


    後輩は笑って、ぼくにブレザーを着せかけた。

    前に回ってボタンを留める。

    ネクタイを直そうとした手を、ぼくはつかまえた。


    「やっぱり、逆も憧れるな。

    ネクタイ、ほどいてみませんか?」

    きゅん

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  14. 新入生向けの部活紹介イベントは、文化祭並みに気合いが入ってる。

    文芸部は、部誌で人気のラブファンタジーの朗読劇をした。

    おれはヴァンパイヤ役。


    そして、自分史上初めての展開に、ガチで困った。

    女子に“カッコいい先輩”と呼ばれて群がられるという。

    あり得ないって。


    死ぬほど疲れた……。


    新入生からやっと解放された放課後。

    同級生のあいつは、さっきから機嫌悪いっぽい。


    「おまえ、何そのツンツンした態度?」


    「あんたばっかり、かわいい新入生女子に囲まれてて嫉妬するわー」


    「は? おまえって実はそっち系?」


    あいつの衣装が、おれの顔めがけて飛んできた。

    女騎士の鎧なんか投げんなよ。


    「あんたがモテるのがムカつくだけだし」


    「何で?」


    「文脈から読み取れ、バカ」


    都合のいい解釈していいって意味?

    マジで?


    「おまえ、おれのこと好きなの?」

    きゅん

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  15. 文芸部では今、春の部活紹介イベントの準備中。

    気合いの入り方は文化祭規模だ。

    おれら文芸部は、部誌で一番人気の小説の朗読劇をやる。


    「すげー、ここまで衣装にこだわんのかよ?」


    甘くて切ないラブファンタジーで、おれの役はヴァンパイヤ。

    衣装着て練習してたら、おまえが部室に入ってきた。

    ビビッて立ち止まってる。


    『後悔しないんだな? おれの目を見ろ』


    台本である部誌を片手に、セリフ言って。

    その途端、おまえがくるっとあっち向いて、顔を両手で覆った。


    「おい、笑うなよ! 失礼なやつだな!」


    「ち、違っ……」


    手首をつかんでこっち向かせてみたら、目が潤んでる。

    てか、真っ赤。


    「え?」


    「あんたね、それ、ギャップ……手、放して」


    ギャップあんのは、おまえのほうだろ?

    そこまで照れるかよ?


    「かわいい」


    マジで本心。

    手、放したくない。

    きゅん

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  16. 「部誌の読者はほとんど女子だから、ぼくみたいな男の書き手は不利です」


    文芸部室で、後輩に愚痴をこぼしてしまった。

    後輩は微笑んだ。


    「あたしは、先輩の作品、好きですよ」


    「男目線の恋愛物はニーズがない気もしますが」


    「ありますよ。

    男子が何を感じてるか、リアルに知りたいし。

    先輩がそれを書いてることにドキドキするし」


    「ぼくが恋愛に無縁の堅物に見えますか?」


    後輩はわかっていない。

    ぼくが誰を想って書いてい……待って、苦しいから。


    「鈍感!」


    「ネクタイを引っ張らな……」


    「ドキドキするって言ってるのにスルーしないでください!

    文から伝わってくるけど、先輩は今、恋愛中ですよね?

    相手は……っく、うぅ」


    伝わっていないよ。

    だから、今ここで、素直な言葉を。


    「きみも鈍感です。

    相手はぼくの目の前にいるのに、何を泣いているんですか?」

    きゅん

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  17. 文芸部は男が少ないから、ホワイトデーは出費だった。

    でもまあ、評判は上々。


    「市販のお菓子だけだと思ってたのに、誕生石のストラップって嬉しい!」


    小さなルビーの原石を揺らして、おまえは笑った。

    そういう顔、ドキッとする。

    しかも、おい、いきなりこっち向くなよ。


    「誕生石って言い出したの、あんたでしょ?」


    「よ、よくわかったな」


    「あんたの書く冒険小説、石が出てくるもん。

    やっぱ好きなんだね」


    おまえの口から「好き」とか言われると、脳が勘違いする。

    あーもう、顔、勝手に熱くなるな。


    「よく行くパワーストーンの店があって、そこで探した」


    おまえのぶんだけ、実は、石の構成を変えてんだ。

    こっそり、おれの誕生石のペリドットを入れてる。


    「そのお店、行ってみたい!」


    「別にいいけど」


    「じゃ、デートね」


    そういうジョーク、ずるすぎだ、バカ。

    きゅん

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  18. おれは文芸部室の窓から校庭を見下ろした。

    運動部の様子を観察して、小説用のネタを探してる。

    と、おまえがおれの隣に立った。


    「何見てんの?」


    「いろいろだけど、おまえこそ何?

    おれのこと見てんの? 見とれてんの?」


    「観察してるだけ。

    部活中のあんた、猫みたいな目してるよね。

    猫じゃらしに飛びかかりそう」


    動物扱いってムカつく。

    おまえに飛びかかってやろうか?

    てか、この位置なら、窓で壁ドンできるじゃん。

    今後の参考のために試し……。


    「はーい、動かないでねー!」


    顔の両脇で、バンッ! とガラスが鳴った。

    壁ドンされてる。


    「なな何だよ!?」


    「今後の参考のために試したんだけど、感想は?」


    「み、耳んとこで迫力ある音して怖ぇし!」


    「軟弱ね」


    「うるせー」


    近すぎんだよ!

    ちっとは慌てろよ。

    キスするぞ、この鈍感バカ女。

    きゅん

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  19. バレンタインに合わせて発刊した文芸部誌は恋愛小説特集だった。

    おれは普段、恋愛物なんて書かない。

    けど、今回は開き直って必死で書いた。


    「めっちゃ恥ずい」


    「かわいく書けてると思うよ」


    「か、かわいく!?」


    男にそんなん言うかよ!

    しかも、おれはマジで正直に書いたんだぞ。

    ヒロインは……おまえ、なのに……。


    「あんたって、案外ピュアなのね。

    パッと見、もっとチャラいのを書く感じがしたのに」


    「お、おまっ、チャラいって!」


    「“よく書けました”のごほうびにチョコあげる」


    チョコったって、文芸部全員用じゃんか。

    まあ、一番乗りで差し出されたから、よしとするか。


    と、部室のドアが開いて、先輩が入ってきた。

    おまえの目が急に輝く。


    「先輩、チョコ作ってきました!

    あーんしてください!」


    ……撃沈……。


    いや、絶対、挽回してやるからな!

    きゅん

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  20. おれは文芸部室のソファにひっくり返って頭を抱えている。

    悩みの種は、来月発行の文芸部誌だ。


    「何だよ、恋愛小説特集って……」


    おれが得意なのはアクションやSFで、恋愛小説なんて書かない。

    パソコンに向かってたおまえが盛大にため息をついた。


    「やることないなら帰れば?」


    「外、暗いから、待ってやってんだけど」


    「恩着せがましくてうざい」


    「おまえさ、書く文章と普段のキャラ、全然違うよな。

    その強気キャラのくせに、あんな切ない恋愛、どうやって書いてんだか」


    「うるさい。

    あんたは何で恋愛物を書かないの?

    好きな人いるんでしょ?」


    いたら書けんのかよ?

    逆だろ。

    いるから書けねぇんだよ。

    いや、それとも。


    「なあ、小説でコクるのって、あり?」


    ありなら、真っ先におまえに読ませるんだけど。

    おまえへの感情そのままの、ラブレターみたいな小説。

    きゅん

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  21. ぼくは特進科の放課後補習を終えて、文芸部室に行った。

    きみが、古ぼけたソファの上で眠っていた。


    「風邪ひきますよ」


    わざと、必要以上に大きな声で言った。

    きみは起きない。

    肩を軽く叩いてみたけど、ダメだ。

    困る。

    ぼくはきみの鼻をつまんだ。


    「にゃぷ!?」


    不思議な声とともに、きみが目を開いた。

    ぼくは顔を背ける。


    「起きましたか、眠り姫」


    「ね、眠り姫なら、ちゃんとした起こし方があると思います!」


    「ぼくは王子ではないので」


    「先輩の意地悪!」


    きみの動きに、とっに対応できなかった。

    ぼくはネクタイを引っ張られてバランスを崩した。

    きみに覆いかぶさるように倒れ込む。


    きみの吐息でぼくの眼鏡が曇った。

    視線を上げる。

    鼻先がこすれて、唇の距離が近すぎて。


    強く、鼓動が高鳴った。

    ぼくは今、衝動に素直になる。


    キスしたい。

    きゅん

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