ケータイ小説 野いちご > 野いちご学園

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  2. 最悪な夢を見た。

    夢の中で、おれは元カノを抱きしめていて、ベッドの中で全部終わってから我に返った。

    ショックすぎて目が覚めた。

    おかげで朝から気分悪い。


    「どうしたの、今日?」


    いま付き合ってる彼女の顔を見るなり、思わずギュッと抱きしめた。

    始業前の空き教室。

    体をかがめて、彼女の肩にあごを載せて、首筋に鼻をくっつけて。


    「なんか犬っぽいよ? 甘えたい気分?」


    冗談っぽく頭を撫でられる。

    目を閉じてささやく。


    「すげー甘えたい」


    あんな夢を見た罪悪感。

    ほんとに違うから。

    元カノなんかじゃなくて、おれが一生ほしいのはおまえだけだから。


    「弱ってるの? よしよし」


    「……すき」


    「ん、あたしも好きだよ」


    もうすぐ授業が始まってしまう。

    放課後、もっと甘えさせて。

    おれの部屋に来て、最悪な夢の名残を全部、おまえの甘い声で消し去ってよ。

    きゅん

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  3. 「お願い、ここにいて」


    授業中、ほかに誰もいない保健室。

    おれと女子と、2人きり。


    「い、いや、ここにいてとか言われても……」


    ベッドのそば、カーテンの内側。

    あんたは熱のせいで顔が赤くて、目がうるんでて。


    「お願い」


    ……違うお願いをされてるみたいで、ヤバい……。


    あのさ、あんたは。

    何で保健委員がおれしかいない日に、熱出してんだよ?

    教室出るときに冷やかされて、初めてあんたのこと意識したけど。

    急展開すぎる。


    「おれが授業に戻らないと、変な噂が立つんだぞ。あんたは迷惑だろ?」


    「変じゃないし、迷惑じゃないよ」


    「ね、熱のせいで寝ぼけてんじゃないか?」


    「寝ぼけてない。わたし、真剣だよ?」


    ぷつん、と。

    たぶん、理性の糸が切れた音。


    「寒気でもするのか?」


    そんな言い訳を口にしながら、本当はただ、抱きしめてみたくなっただけ。

    きゅん

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  4. おれはいつだって脇役だ。

    親友は“学園の王子”で、おれはその窓口。

    あいつと話したい女子は、まずおれに話しかけてくる。


    「今度の試合、観に行っても大丈夫ー!?」


    「会場まで自力で来れるんならどうぞ」


    親友はストライカーで、おれはアシスト役。

    ひがむ気持ちは全然ない。

    派手な女子に囲まれてキラキラしてる親友、ほんとは苦労してるから。


    と、急に声かけられた。


    「ク、クリスマスイヴ、空いてませんか……?」


    同じクラスの地味子ちゃん。

    あんたもあいつのファンかよ?


    「イヴはあいつ、他校の彼女と会うっつってた」


    「ち、違……あなたの、こと」


    「おれ!?」


    真っ赤になってうなずく彼女、隠れ美人で。

    実は気になってたんだ。


    「予定、ありますか?」


    「な、ないっ」


    待て、おい。

    顔が熱い。

    何だこれ、おれ、今、脇役じゃなくなってるだろ!?

    きゅん

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  5. 遠距離恋愛中の彼女が、唐突に、クリスマスイヴに一人暮らしのぼくの部屋に来た。

    合鍵を忘れたらしく、外で寒そうに待っていた。


    「今日は、うちには帰らない予定。

    家族には、今日こっちに戻ってること、内緒なの。

    ここに泊めて」


    爆弾発言に、思わず固まる。

    泊める?

    ほんとに?

    ……いやいや、まずは冷静になろう。


    「とりあえず、荷物、部屋に運び込もう。

    混んでるかもしれないけど、どこかに食べに行こうか」


    「うん。でも、その前に、きみの部屋でちょっと温まりたい」


    「了解。ぼくの部屋は狭いから、すぐ暖房が効くよ」


    「そうじゃなくて」


    「ん?」


    いきなり彼女がぼくに抱きついた。

    くっついたまま、ぼくを見上げる。


    「ぎゅってして温めて」


    爆弾発言。

    理性、吹っ飛ばされました。

    彼女がかわいすぎる。

    もう、“ちょっと温まる”くらいじゃ済まないよ?

    きゅん

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  6. クリアな空が

    リンと澄む朝。

    スクールバスに乗り込んで、

    マスクを付けた顔、窓に映るけど、

    スマイルもなく。

    おとといのテストは難しくて、

    めいっぱい勉強したけど、

    できが悪そうです。

    とうぜんながら、

    うつうつとしてる受験生です。



    あの夜のキスが、わたしの支え。

    なつかしくて、

    たいせつで。

    にげだしたい毎日が続くけど、

    あなたを想って

    いっしょうけんめい

    たたかっています。

    いま、わたしは→1文字目タテ読み。




    他愛ない暗号がタイムラインに上がっていた。

    ぼくに宛てたものだと、きっとぼくだけが確信している。


    傷付いて家出してきたきみと出会ったのは、1年前の秋。

    惹かれ合ってしまった。


    返事をしようかどうか迷っている。

    年の離れたきみを好きだと、遠いこの場所から、告げてもいいのか。


    頑張れよ。

    ぼくも、きみに会いたいよ。

    きゅん

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  7. 「先生、風邪は治りました?」


    昼休みの図書室。

    雨が降ってるせいか混んでいる。


    「おまえ、今日は図書委員の当番じゃないだろう?」


    「職員室に行ったら、先生は図書室で仕事してると聞いて」


    図書のデータ打ち込み、という単純作業。

    集中できる仕事がほしくて。

    しかし……おれを悩ませる原因が、わざわざ追いかけてくるとは……。


    「熱を出してる間は世話になったが、あのな」


    「卒業まで1年半、わたし、ちゃんと待つので」


    「待つ?」


    差し出されたのは、手作りの弁当。

    長かった髪を切ったおまえは、おれに微笑みかけた。


    「病み上がりだから特別です。栄養つけないとダメですよ」


    嬉しい、と思ってしまうおれは、生徒らが思ってるよりずっと未熟だ。

    1年半。

    本当におまえが待っててくれるなら。

    未熟な自分を全部、おまえの前に見せよう。

    この気持ちを正直に告げよう。

    きゅん

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  8. あいつ、大丈夫かな?

    昔の部活仲間とうまくいってないみたいだ。


    〈おれでよければ、愚痴くらい聞くよ〉


    それだけしかできない関係。

    字数制限のある画面の中で、顔も見せ合えないままで。


    〈ありがとー! 文字でまとめてみたら、ちょっと落ち着いたよ!〉


    〈読んだよ。らしいな、って感じ〉


    生身で会える距離ならどうなんだろう?

    文字じゃなきゃ伝えにくいこともあって。

    でも、文字だけじゃ伝わらないこともあって。


    落ち込んでるとき、頭なでてやりたいとか。

    いきなり手をつないで驚かせてみたいとか。

    そもそも、どんな顔でどんな声で笑うんだろうとか。

    ……彼氏、もしかしているのかなとか。


    〈なあ、あのさ、〉


    会いたいよ。

    そう言っちゃいけないんだ。


    〈ん、何ー?〉


    〈応援してる〉


    「好き」の代わりに、それだけ言う。

    壊しちゃいけない、画面越しの関係。

    きゅん

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  9. 中学のころ仲良かった女子に、久々に会った。

    一駅隣の女子校で、部活を頑張ってるらしい。

    今、何か、心臓ヤバい。

    おまえ、かわいくなったよな。


    「背、伸びたんだね」


    見上げられて、あせって。

    つい、余計な一言。


    「おまえは太った?」


    「違うから! 制服が悪い!」


    ワンピースの制服はうちの男子校じゃ人気が高い。

    華奢な子が着てたらかわいくて。


    「そーいや、おまえはビミョ……」


    「ウエストが絞られてないから太って見えるの! 胸のせいで!」


    手をつかまれて、ワンピースの腹んとこに持ってかれた。

    腹というか、胸の真下というか。


    「胸で服が持ち上がってるだけなの!」


    「や、あの……」


    手、当たってる。

    ヤベ、柔らけー。


    「おなかは太ってないから! わかった!?」


    「おまえが女ってこと、よくわかった」


    ドキドキさせた責任取れよ、バカ。

    きゅん

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  10. 「ふざけんなよ!」


    怒鳴り声とともに、頬がバシンと痛んだ。

    生徒に殴られたのは初めてだ。


    「あいつに手出しやがって! 教師のくせに!」


    「……ああ。おれが悪い」


    「何でキスなんかしやがった!?」


    高校時代の片想いの相手と再会した。

    胸の古傷が痛んだ。

    その後、熱が出て、悪夢の中で彼女を求めた。

    看病に来た、彼女に似た女子生徒を抱きしめてしまった。


    足音がして、振り返る。

    涙目の女子生徒がおれを見て、顔を伏せた。

    おれを殴る手を止めて、彼は女子生徒に駆け寄る。


    「行くぞ。あんなやつ、ほっとけ」


    うつむいた格好や長い黒髪の後ろ姿が、本当によく似ている。

    でも、それはきっかけに過ぎない。


    「求めた相手、おまえ自身だったかもしれない。おれは……」


    つぶやく言葉は、後ろ姿には届かないはずだ。

    告げてはならない想いが、おれの胸に傷を増やしていく。

    きゅん

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  11. 「試合で勝ったほうが彼女と付き合う」


    そんな約束で対決した市大会。

    おれが勝って、あいつは素直に身を引いたけど。


    「最低! 人を賭けのネタにしないで」


    キスしようとして叩かれて、振られた。

    で、不公平なことに。

    あいつも賭けに乗った最低野郎なのに、彼女はあいつと付き合い始めた。


    ……というグダグダな失恋話を後輩に聞かせた。


    「賭け以前に、負けが決まってたんでしょう」


    「ニヤニヤすんな」


    「ニコニコですよ。やっと振られましたね」


    「性格悪ぃ」


    「先輩にはちょうどよくないですか?」


    口が悪いふりして、ほんとは心配性な後輩。

    おまえの気持ちには気付いてたよ。


    「惚れてくれる相手を好きになれたらいいのにな」


    「好きになる相手って、どうして選べないんでしょうね」


    ポツリと寂しげな後輩は、確かにかわいいのに。

    ごめん、おまえには恋してない。

    きゅん

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  12. 「もう十分だよ」


    おれの腕の中で、おまえはそっと笑った。

    泣きそうなのに無理やり笑ってる顔だ。


    「何が十分なんだよ、バカ」


    「わかってるでしょ、わたしのこと。ここにいちゃいけない存在だって」


    おまえに声かけたのは当然だった。

    泣き続けてる女、ほっとけねぇだろ。

    ずっと苦しんできた片想いの決着をつける手助けをした。


    「おれ、おまえのこと、逆に傷付けたんじゃねぇか?」


    「最初から失恋って知ってたからいいの。心残り、なくなったよ」


    実体のふりをしたぬくもりが、フッと消える。

    透き通った、泣き笑いの顔。

    もうすぐこの幻さえ消えるんだと、おれにはわかった。


    「好きだ。さっさと生まれ変わってこい」


    「うん。ありがとう」


    背伸びしたおまえの唇がおれの頬に触れて、その最後の一瞬だけ、確かに温かかった。

    じゃあな。

    気付けば、おれは独り立ち尽くしている。

    きゅん

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  13. 幼いころ、ともに過ごした。

    彼女は、王子である私にとって唯一の存在だった。

    親友で、初恋の人で、結婚を誓った仲。


    彼女は遠い日本へ帰っていった。

    それから10年。


    「嘘……ほんとにきみなの?」


    彼女は私を覚えていた。


    私は2週間だけ日本に留学する。

    どうしても彼女とともに過ごしたかった。

    王子ではない、ただの高校生として。


    「あのころも今も、そなたが好きだ」


    その想いを告げるつもりはなかった。

    私など忘れてくれてよい。

    そう言いたいのに。

    またすぐに離れ離れになるのに。


    「こっちを向いてよ。わたしを見て」


    抑えきれない愛に溺れて、抱きしめて。

    眠る彼女を見つめながら神に祈る。


    愛しい女を泣かせる罪深い私に、許しを。

    私の愛する女に、どうぞ深きご加護を。


    夜の明ける前に私は旅立つ。

    異国の王子の身分が、私にこの国での恋を許さない。

    きゅん

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  14. 「あっ、ヤバッ!」


    女の子の声が頭上から聞こえた。

    思わず上を向いて。

    何かがおれの顔面に降ってきた。


    「ッ!」


    衝撃と同時に視界が真っ暗になって倒れた。

    眼鏡、どこ行った?

    ……と思いながらボーッとしてて。


    「ちょっと、大丈夫!?」


    揺さぶられて目を開ける。

    ぼんやりした輪郭。

    声から判断するに、同じクラスのバスケ部女子。


    「2階からボール落としちゃって!

    というか、眼鏡かけてないと、きみ、そういう顔なんだ」


    彼女がおれの前髪を掻き分ける。

    ドキッと鳴る心臓。

    彼女はおれに顔を寄せた。

    眼鏡なくて見えるくらい近い。


    「イケメンのおでこにコブ作っちゃった。ごめん」


    「いや、あの……」


    おれ、女子と無縁の地味男、だったはず。

    何で女子と見つめ合ってんだ?


    「顔、赤い?」


    単純すぎるけど。

    この数秒間で恋に落ちたみたいだ。

    きゅん

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  15. 「ねえ、腕枕してよ」


    いきなり言われて、おれは驚いた。

    普段はさっさと服を着るくせに、今日はどうした?


    「恋人同士みたいなこと、イヤだったんじゃねぇのか?」


    腕枕、手をつなぐこと、キス。

    おれとの関係にそんなものは必要ないって。


    「……腕枕して」


    ふさわしくない場所で。

    ふさわしくない行為を。

    ふさわしくない相手と。

    いくつも重ねた罪のスリルは薄れ、むしろ胸が苦しくて、潮時だと思った。


    「火遊びは終わりにしよう」


    「やだ」


    「終わりだよ。おまえを粗末に扱うような関係は、終わりだ」


    おまえの髪を撫でて、顔を上げさせる。

    頬を手で包んで、涙色の目をのぞき込む。


    「おまえを愛してる自分に気付いた」


    「え……」


    「だから火遊びは終わりだ。大事にする」


    うなずくおまえの唇に、おれは初めて唇を重ねる。

    遊びじゃない恋が、やっと始まった。

    きゅん

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  16. 完全に脚がしびれてる。

    腰も疲れてきた。

    心拍数が上がったまま収まらない。


    「じ、地獄だ……」


    部室のソファで、後輩がおれの太ももを枕に、横になった。

    それが1時間前。


    「寝るなよ」


    寝顔に視線を奪われる。

    くそ、マジつらいんだけど。

    と、後輩が目を開けた。


    「んー、せんぱい?」


    「ね、寝返り禁止っ、見んな!」


    腰から下が痺れてる上に熱くてヤバい。

    後輩がニッと笑うと、おれの脚を椅子にして、横向きに座った。


    「あせって困ってる先輩、なんかカワイイ」


    「だ、誰のせいだと思ってんだ!」


    「先輩、真っ赤ー」


    細い指がおれの頬に触れて。

    その瞬間、おれの理性がプツンと切れた。


    「とっくに準備でき上がってんだよ」


    「え?」


    「1時間、我慢してた。目ぇ覚ました以上、応えてもらうぞ」


    おれは牙を剥くように笑って、後輩を押し倒した。

    きゅん

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  17. 「オススメした本、どうだった?」


    尋ねたら、きみはやっぱり口ごもった。

    わかってたって。

    おれが好きな本格派SFは、一般相対性理論からヒッグス粒子まで天文理論が目白押しで。

    要するに、かなり読みにくい。


    「で、でも、主人公はステキでした」


    「無理しておれに合わせなくていいんだよ」


    「……先輩の好きなもの、同じように好きになりたくて」


    「おれはミステリーは苦手だけど、ミステリー読んでるときのきみは好きだな」


    「え?」


    「楽しそうに読んでる顔、かわいい」


    「そ、そんなっ……先輩がSF読んでるとき、もっといい顔してて……見つめちゃうくらい……」


    真っ赤なきみの頬を手で包む。

    きみが目を上げた。


    「おれが気付かないときに見つめないでよ」


    「せ、先輩」


    たまには本じゃなくておれに夢中になれ。

    その視線、今だけは、逃がさない。


    「好きだよ」

    きゅん

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  18. 「せ、先生って、経験豊富なんですか?」


    国語教務室に質問に来たおまえに、唐突に尋ねられた。

    おい、古文の課題に集中しろ。


    「余計なことを訊くな」


    まともな恋愛遍歴をたどっちゃいない。

    高校時代の片想いが破れて、大学時代はメチャクチャだった。


    「噂を聞いたんです。先生が、その、すごくモテて、遊んでて……」


    「だったら何だ?」


    「……ショック、です……」


    昔の片想いの相手に似てる。

    だから目を引かれて、気になって。

    いつの間にか本気で惚れてた。


    「昔話だ。今どきの高校生のくせに、このくらい……」


    「昔も今どきも関係ないですっ」


    それ以上、何も言うなよ。

    おまえの頭にぽんと手を置いて参考書のほうを向かせる。


    「さっさと終わらせろ」


    「先生……」


    「教師でいさせてくれ」


    ケダモノのおれを見せたくない。

    本当はいとしくてたまらない。

    きゅん

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  19. ぼくの彼女は年上だからか、会うたびにぼくのことを“かわいい”と言う。


    「やっぱり、男としては微妙な気分になるかも。

    たまには“カッコいい”って言われたいかな」


    「ごめん、でも悪気はなくて。

    最近ネットで見かけた言葉なんだけどね。

    “カッコいい”と思ってるうちは、その恋は引き返せる。

    彼が何か失敗したとき、“カッコ悪い”と感じて冷静になるから。

    でも“かわいい”と思い始めたら引き返せない。

    彼が何をしても“かわいいー!”になるから」


    「それ、つまり……」


    「つまり、わたしがきみに“かわいい”って言うときはね」


    言葉を切った彼女が背伸びをして、ぼくの耳に口を寄せる。

    くすぐったい内緒話の声で彼女は言った。


    「わたしの“かわいい”は“愛してる”と同じだから」


    一瞬で熱くなったぼくの頬に、彼女の唇が触れた。

    何ていうか。

    やっぱり彼女にはかないません。

    きゅん

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  20. サッカー部の練習に必ず来てるあいつ。

    エース目当てなんだけど。


    「今日は休みだぞ。自由練よりデートだって」


    「知ってる。ついに付き合っちゃったかー」


    「なのに来たわけ?」


    「習慣」


    「あー、のど渇いた」


    「これ飲む?」


    差し出されたのは紙パックのいちごオレ。

    あいつがいつも飲んでるやつ。


    「いらね。甘すぎて逆にのど渇く」


    「甘すぎだよね。女子っぽいピンクだから買ってたけど」


    「キャラ作りかよ。かわいくねえ」


    「踏んでほしいのね?」


    かわしながらスカートをのぞき込んだら、本気で蹴られた。

    痛ぇ。


    「見事な悪女スマイルだな」


    「悪女より姫になりたい」


    「演技ばっかの姫より、正直な悪女でいいだろ」


    「生意気」


    ラリアットを受け止めて、そのまま抱き寄せる。

    ぎゃー汗くさいとか騒ぐ声を無視。


    「素のままのおまえが好きだ」

    きゅん

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  21. きみは少し残酷な女の子だった。

    彼の誕生日に下駄箱にこっそりプレゼントを入れるくらい、まだ彼のことを好きなんだ。


    「おれたち、しばらく会わないことにしよう。おれは待ってるから」


    その間に、きみはちゃんと彼と話をしてきなよ。

    彼に言われるままに別れたそうだけど、納得してないだろ。


    「わたしが彼と復縁したら、どうするの?」


    「それでも、おれは待ってる。何ヶ月でも、何年でも」


    気まぐれな彼に振り回されて泣くきみを「おれが奪ってやる」と口説いた。

    きみはおれの彼女になってくれたけど、奪うなんて簡単じゃなくて。


    それでも信じて待ってる。


    きみがうなずいてくれた日から、12回、月が替わった。

    おれの下駄箱に手紙が入っていた。


    〈あなたに会いたい〉


    じっとしてられなくて、おれは駆け出す。

    今すぐきみを抱きしめたい。


    おかえり。

    信じてた。

    好きだよ。

    きゅん

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