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受験の資料を提出しようと職員室に向かうと懐かしいあの人の姿
「百合先輩?」
「透君」
「何でここに?」
「私、浪人してて、だから受験関係で用事があって」
俺の憧れだった先輩
その背中を追いかけるみたいに、俺は先輩と同じ大学を志望した
「今年はライバルだね」
先輩はふんわり笑った
「二人とも合格出来たら、今度は同級生として会えるかもね」
一年前、百合先輩に片想いしていたあの頃の気持ちを思い出した
その変わらない笑顔や声に、忘れていたはずの気持ちがじわじわとよみがえる
先輩と同じ教室でいられたら、もっとたくさん思い出をつくれるのに
なんて考えてはたった一つの年の差がもどかしくて
もし大学で先輩とまた会えるなら
今度は同級生として関われるなら
「頑張ります」
「うん、また学校で」
先輩の言う学校はこの高校のことじゃない
そう気づいた上で約束する
「また、学校で」
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久しぶりにあった元宮は少し大人っぽく見えた
「あけましておめでとう」
かしこまった挨拶はちょっと変な感じ
さりげなく元宮が私に手を差し伸べる
冬だから、寒いから
心の中で誰に向けてかよくわからない言い訳をしてその手を握り返す
今年最初に手を繋いだ
新年ってだけで何でも最初って付けたくなる
思えば去年最後に手を繋いだのも元宮だった
最初と最後ってやっぱり特別
最初と最後が元宮で良かった
今年の最後も来年の最初も元宮であったらいい
そしてまた元宮にとっての最後も最初も私だったらいい
男の子はそんな細かいことは気にしないかな
元宮みたいな繊細さの欠片もないタイプならなおさらだ
「今年初、手繋ぎ!」
元宮の口から意外な言葉
「そうだね、記念だね」
思わず緩んでしまった口元をマフラーで隠す
私の一年の最初と最後をいつまでも元宮に彩って欲しい
だって元宮は私の特別だから
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君に一方的に告白をして、返事も聞かず逃げるように去ってしまった
あの日からもう何日経っただろう
夏休み前の浮き足立った気持ちが漂う暑い日だった
外を見るともう雪がチラついている
私は新しい学校でも元気にやってるよ
でも一つ、心残りがあるとしたら北野君と作ったオルゴールを捨てちゃったことかな
オルゴール見て北野君のこと思い出すと辛いから、だから捨てちゃった
北野君は元気にしてますか
こんな感じかな
年賀状に、あんまり重い話を書くわけにはいかない
やっぱりあの時、返事を聞いておけば良かった
もっとゆっくり話せば良かった
あの告白はもう時効が来てしまったかな
この気持ちも時間が消してくれると思ってたのに
北野君のことが好き
この気持ちに時効はないみたいだ
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空君には年上の可愛い彼女がいる
私は空君のことが密かに好きだった
だから私は空君のことを嫌いになりたい
空君の短所を探してみた
身長が低いところ
細かいことで張り合うところ
子供っぽいところ
全然、完璧なんかじゃないのに
空君はそれさえも長所にしちゃうんだ
空君の長所は誰にでも優しいところ
その優しさに簡単に心惹かれた
今はそんなところが一番、嫌い
嫌い、嫌い、嫌い、好き
心の中で唱えても、自分が惨めになるだけだ泣きそうになって上を向く
どこまでも澄んだ青空が広がっている
今の私には似合わない、雲ひとつない空
空君によく似合う、そう思わせるような空
快晴の空からたった一滴、雨が降った
それが私の正直な気持ちだった
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冬の体育は長距離走があるから嫌いだった
でも今日はちょっと楽しみだったりする
陸上部の武智のかっこいい姿を見られるから
スタートの合図とともに男子たちが走り出す
クラスの大半が長距離走は適当にこなす
そんな中、武智は本気だってわかる
そのいつになく真剣な表情が私まで緊張させた
最終コーナー、一番に角を曲がってきたのは武智だった
ラストのゴールまでの一直線
どこまでも軽やかに駆け抜けて
ゴールした瞬間、今日一番の笑顔
「西野、疲れた〜」
そして私の所にやってくる
かっこよかったよ、って褒めようと思ったのに
「なぁ、俺かっこよかった?」
なんて聞いてくるから褒める気が失せる
「そういうの自分から言うと台無し」
そう言って武智の髪をわしゃわしゃとタオルで拭いた
でも、武智が本気なら私だって本気で走る
「私も頑張るから見ててよ」
かっこいい武智を見たからきっと私も頑張れる
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カーテンがふわりと揺れる
放課後のオレンジ色の教室
白いイヤホンを耳に突っ込んで、最近見つけたお気に入りのバンドの曲を聴く
「何聴いてんの?」
心地よい音色の裏から大好きな和哉の声
私の左耳のイヤホンがあっという間に和哉の右耳へ
「この曲、俺も知ってる」
ちょっと切ない片想いの歌
「舞もこーゆー気持ちになる相手いるんだ」
和哉がニヤリと笑う
「違うよ、ギターに合うかなと思って聴いてただけ」
そう言ってはみるけれど、この曲を聴いて考えるのは他の誰でもなく和哉のこと
「確かに、これギターで弾きたいな」
和哉は持っていたギターで今聴いたあの曲を奏で始める
和哉が弾いて、私が歌う
たった二人の寂れたバンド
歌詞が私の想いを乗せてカーテンとともにゆらゆら揺れる
和哉もこの曲を聴いて私のこと考えてくれてたらいいのにね
だけど、残念ながらこの曲はちょっと切ない片想いの歌
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駅のホームに二人並ぶ
隣のさくらは小さい手で大切そうに熱々のホットココアの缶を握っている
とっくにプルタブを開けたはずなのに、さくらは口をつけない
「飲まないの?」
「うん、まだ」
ホットココアの温かい湯気がひんやりとした空気と混ざり合う
「冷めちゃうよ」
「冷ましてるの」
ようやく口をつけた、と思ったら
「熱っ」
て言って顔をしかめる
その表情すらどこか幼くて可愛い
猫舌っていうより、本当に猫みたい
「早くしないと電車来ちゃうよ」
ちょっとせかしてみたら
「次の電車まで一緒にいようよ」
甘い返事が返ってきた
こういう時、身長差って不便だ
中々冷めないココアをじっと見つめているさくらの表情は見えない
いいよ、その返事の代わりにそっとさくらに寄り添った
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ごめん、別れよう
クリスマスの今日、突然告げられた言葉
別れる理由すら教えず彼は去っていった
最低なヤツだ
なのに涙が出るのが悔しい
寒さに洗練された冬の空気の中
冷たい顔を伝う涙だけが熱かった
一人の帰り道マフラーに顔をうずめて歩く
いつもより地下鉄の駅が遠く感じられた
地下鉄の駅のエレベーターに足を踏み入れたとき、突然後ろからギュッと抱きしめられた
一瞬期待して、顔を上げる
エレベーターの奥の鏡に映っていたのは意外な人物だった
「冬真くん」
「だから、あんな奴やめとけって言ったんだ」
耳元で声が聞こえる
冬真くんは全部わかっていた
二人を乗せたエレベーターの扉が閉まる
地下に降りるまではこのままでいたい
君の体温で私の凍りついた心を溶かして欲しい
手の平にのせた雪がじわりと一瞬で溶けるように
泣いて泣いて乾いた目からじわりと熱い涙が一滴つたうように
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イルミネーションが光り輝く帰り道
目の前を万里華が通り過ぎていく
お互いの気持ちがすれ違って、話せないまま気付けばクリスマスイブになっていた
今日もまたこの現状から目を逸らしてしまえば楽かもしれない
でも今日だけはそれ以上に後悔する気がした
勇気を出さなきゃ、関係は平行線のままだ
「万里華」
声が少し震えてしまったのはきっと寒さのせい
僕の不安とは裏腹に万里華は僕の頼りない声に振り向いてくれた
「僕はやっぱり万里華じゃなきゃ駄目みたい」
なんて言われるだろう
今更こんな想いを伝えたって遅いかもしれない
冬の空気が沈黙を際立たせる
万里華の目から町中の光を集めた涙がポロポロとこぼれ落ちた
「私もだよ」
その柔らかい泣き笑いの表情を何よりも守りたくて
「遅くなってごめん」
強く万里華を抱きしめた
クリスマス前夜、少し早めにもらったプレゼントはほんの少しの勇気だった
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ベランダを掃く手を止めて空を見上げる
「雪、降らないかなぁ」
あいにく空は快晴だ
「おいっ、掃除サボんなよ」
頭をコツンと肘で小突かれる
宇佐見君だ
「だってもうすぐクリスマスだよ?」
「じゃあ、俺が雪降らせてやる」
そう言うと、宇佐見君は手に持っていた黒板消し同士を叩き始める
真っ白なチョークの粉がふわふわと風に運ばれてゆく
それはまるで雪のようで
「ちょっと綺麗かも」
「だろ?」
そう言って宇佐見君は得意気に笑う
それだけで私にとって、もう最高のプレゼントだ
私のためだけに降った雪が太陽に照らされてチラチラと目の前で輝いていた
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カーディガンを着るようになって、コートを着るようになって、
マフラーを巻くようになって…
本格的に寒くなってきた頃
駅前ではイルミネーションがやっていた
『イルミネーション見に行きたい!』
そんな私のひと言で私達はイルミネーションを見に来ていた
ただの駅前の広場がこんなにもロマンチックになるなんて
冬ってやっぱり最高だ
「私、彼氏とイルミネーション見るの夢だった」
と私が言うと
「ベタだなぁ」
と海斗は笑った
夢中になってはしゃぐ私の腕をふいに海斗が引っ張った
海斗の方にグッと近づく
驚く私に海斗がそっと顔を近づける
イルミネーションの影で私達は密かにキスをした
コートよりもマフラーよりも温かいキスだった
じんわりと心が溶けていくようだった
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私の少し先には、いつも通りどこかかったるそうな新山が歩いていた
ポケットに片手を突っ込んで、白いゴミ袋を肩に引っ掛けるようにして持っている
クリスマスも近づいてきたこの時期、その後ろ姿はまるでサンタのようだった
「あー、サンタだ!新山サンタ!」
そう言って新山に駆け寄る
「サンタはゴミなんか運ばねーよ」
冗談なのにつまんないやつ
「でもさ、そのゴミの中にも案外、大切な思い出とか混じってるかもよ?」
「はぁ?意味わかんねー」
自分でもよくわからない
けど確かにその白い袋の中には、私の大切な想いが入ってるんだよ
私が途中で書くのをやめた新山へのラブレター
もう少し勇気が出たら、もう一度書くから待っていて欲しい
だから、それまではこの曖昧な関係を楽しんでいたい
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いつものバス停で今日もまた浅賀君が乗ってくる
毎日その瞬間、軽く手を振って一緒に登校することはない
浅賀君は他クラスの男友達の集団の中にいる
いつもバス後方の二人掛けの席に座っている私
満員のバスの前方で余裕で吊り革に掴まってる君
私は窓にもたれながらそんな浅賀君をひそかに眺めている
時々、荷物の多いお婆さんを手伝ったりして本当に優しい人
冬の窓は結露が外の風景にモザイクをかけるけど
指でなぞるとくっきりと線が浮かぶ
ほんの遊び心でM・Aと君のイニシャルを書いてみる
乾いたら跡が残るかもしれない
もし誰かにバレたら
自分のイニシャルだって誤魔化せばいい
だって私のイニシャルもまたM・Aなのだから
君との数少ない共通点
バスのアナウンスが聞こえる
もうすぐ学校に着く
今日もまた遠くから君を見つめる一日が始まる
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はぁ
君の吐く小さなため息
普段なら気付けなかったかもしれない
冬は君の悶々とした悩みまで白い形のまま目に見える
君の小さい背中はきっと俺なんかには理解出来ないほど色んな悩みを背負ってる
だから俺の大きな背中で守りたくなる
「永森〜」
その小さな背中に思いっきり飛びつく
「うわ、重」
相変わらず塩対応
そんなところも好きだけど
「なぁ、名前で呼んでいい?」
「別に、いいけど」
「志乃」
初めて口にした言葉が冬空に白く浮かぶ
ほんの一瞬、君の動揺が沈黙として表れる
それが少し嬉しい
「…何?」
「なんでもない」
言葉も白い息もすぐに消えてしまうけど、それなら何回だって口に出せばいい
「志乃」
暖かい愛のある響き
俺の言葉で少しでも君が笑ってくれればそれでいい
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「なんか今日暑くない?」
いまいち暖房が効いていない教室で風太が言った
「いや、寒いよ」
そう返事したときに見た風太の顔色は悪かった
「熱あるんじゃない?」
前髪を掻き分けて風太のおでこと自分のおでこに手を当てて比べてみる
「ほら、熱いもん」
おでこから手を離すと風太が私の手をグッと掴む
再び私の右手は風太のおでこの上にあった
「晴子の手冷たくて気持ちいい」
私の体温がどんどん上がっていく気がした
ずっと手を貸しているわけにもいかないし
何より私の心臓がもたない
私は左手で自分の鞄の中を探った
「ほら、これあげるから」
そういって差し出したのは冷却シートだった
今年の夏風太と冷却シートで暑さをしのいだことを思い出す
これが正しい使い方だ
「…ありがとう」
風太はだいぶキツそうだった
「ほら、保健室行くよ」
いつにも増して子供みたいな風太の左手を引っ張った
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何でも卒なくこなす、憧れの透先輩みたいになりたくて
毎日必死に努力した
頑張って、頑張って、少し頑張り過ぎたみたい
視界がグラっと傾いた
目を覚ますと保健室のベッドの上にいた
周りはカーテンで囲まれている
白い天井をボーっと眺めた
「せんせー、頭痛い」
保健室にもう一人誰か来たようだ
「川谷君、また夜ふかししたんでしょう?」
透先輩の苗字だ
「だってテストヤバイし」
「体調崩したら意味ないんだからね」
保健室の先生に注意されている
用事があるから、と先生がいなくなると
「…由衣も頑張ってるから」
ボソッと先輩が呟いた
「先輩の方こそ努力家なんですね」
私はカーテン越しに言った
「由衣いたの?」
「私、先輩のこと…」
言いかけてやめた
この想いは先輩につり合う人になってから伝えよう
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結局、私達の関係ってなんだろう
悶々としていると焼いていたクッキーが焦げてしまった
捨てるのも勿体なくて、ラップに包んでポケットにしまった
「西野お待たせ」
部活終わりの武智が家庭科室の前に立っていた
「帰ろ」
いつも通り一緒に歩く帰り道
お互いに好きなのは何となく分かっている
でも、どちらも好きとは言わない関係
制服のポケットの上をなぞる
思い焦がれた感情はポケットに秘めたまま
一体いつまでこのままなんだろう
もう今日で終わりにしようか
「私、武智のこと好きだよ」
右足を踏み出した勢いに任せて言った
「知ってる」
「俺、西野のこと好きだよ」
「うん、知ってる」
「…私達付き合ってる?」
ローファーを見つめていた
武智の顔は見れなかった
「わかんねぇ」
「だから今日から」
武智がそっと手を差し伸べた
私はゆっくりとその手を掴んだ
また一歩、君に近づく
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波野君も左利きなんだ!
今日また一つ、小さな発見をした
使ってるペンが一緒だとか
同じ牡羊座生まれだとか
出席番号がちょっと近いとか
そんな些細な共通点に心が弾む
そして少し運命を感じる
バカみたいだけれど
クラスで多数決をするときは気付いたら波野君の方を見ているし、
席替えをしたときは自分の席よりも先に波野君の席を探している
前に波野君が、落ち込んでいた私を励ましてくれたことがあった
波野君のことを好きになったのは多分その時だ
いや、本当はもっと前から気になっていたのかもしれない
私が抱いていた恋心に気付いたのがその時だった
班分けのたびに一喜一憂して
無意識のうちに目で追ってはときめいて
波野君のせいで毎日が忙しい
波野君のせいで毎日が楽しい
今日もまた共通点を探している
波野君にとっての私もそんな存在でありたいと心の片隅で願いながら
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「手、繋ぐ?」
隣を歩く滝沢が言った
その言葉にドキッとして滝沢の方を見る
バチっ
しっかりと目が合う
それが了解の合図のようだった
滝沢の右手と私の左手が軽く触れ合う
バチっ
「イタ」「イテ」
静電気が走った
「何で今なんだよ」
急に現実に引き戻されたような感じだ
恥ずかしいような
面白いような
くすぐったい気持ちになった
本当きまんないなぁ
かっこいいくせに、どこか残念な滝沢が愛おしく思えた
ケラケラ笑う私の手を滝沢がギュッと握りなおす
油断していた私の脳にバチっと衝撃が走る
「笑うなって」
そう言う滝沢も照れたように笑っていた
「私は好きだよ、滝沢のそういうトコ」
どこか残念な、そんなシチュエーションも私達らしい
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半年前、僕は幼なじみの万里華に告白された
そして僕は万里華をフった
あの日から万里華を目で追うようになった
そして気付いた
僕は万里華のことを知っているようで知らなかった
誕生日も、血液型も知っている
でもそういうことじゃない
本当に知るべきだったのは言葉じゃ表せない部分
半年間で気付いた
万里華は何気ない所が優しいこと
他人を優先させがちなこと
万里華はあの日の帰り道言った
「幼なじみ、もうやめよっか」
泣きそうな笑顔だった
「一緒にいるともっと好きになるから」
あれ以来、話していない
あの日から僕は万里華のことを意識するようになった
あの日から万里華は僕のことを避けるようになった
どうしてこうもすれ違うんだろう
教室で万里華と目が合った
お互いに目を逸らした
あの日から目を逸らすみたいに
僕はその一瞬に後悔した
きっと万里華も後悔している
同じ気持ちの僕たちは今日もすれ違う
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きゅんができる!
本当に解除しますか?