ケータイ小説 野いちご > 野いちご学園

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  2. 「菫」
    帰ろうとした私を榊くんが呼び止めた。

    「何?」
    至近距離で見つめるのは恥ずかしくて、私は榊くんの頰の傷に逃げた。

    「俺のバイク乗って帰んねえ?菫、乗ってみたいって言ってたじゃん」

    榊くんも私から少し目を逸らした。

    「乗る!」

    下の名前を呼んでくれて、言ったことを覚えていてくれていて。
    期待しそうになるけど、ダメだ。

    暴走族の総長ですごくモテる榊くんは、私なんかが手が届く相手じゃない。

    好きだけど、大好きだけど、後ろ姿を見ているだけでいい。

    これは究極の片想い。



    後ろに乗っている菫はどんな顔をしているんだろう。

    同じクラスになってすぐに、屈託のないその笑顔に惹かれた。

    だけど、暴走族なんかやってる俺が菫に近づいたら、傷つけてしまいそうで。

    でも、今だけはこの距離で、菫の声を聞いていたい。

    好きだけど、大好きだけど、このままでいい。

    これは究極の片想い。

    きゅん

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  3. 高校二年の春。
    中学から四年間同じクラスだった三波とクラスが離れた。

    「藤澤、信号赤なりそう!走ろ!」

    「えー、筋肉痛だから無理」

    「シャトルランした?俺、体育明日なんだー」
    帰り道の横断歩道。
    そう言って三波が足を止めた時、何かが溢れた。

    筋肉痛を共有できなくなった。
    そんなことで私は初めて三波とクラスが違うことを実感して泣きたくなった。

    「本当にクラス違うんだよね」

    「俺さ、今年になって放課後が一番好きになった」
    今さらのことを呟く私に三波は優しく笑った。

    「クラスで何かあるたびに、帰りに藤澤に話そーって思って放課後が楽しみになる」

    三波がクラスでも私のことを考えてくれている。三波の笑顔を見たら、それだけでいいと思えた。

    信号は青になった。

    鈍い痛みが走る足で進む一歩はいつもより重たい。

    そんな一歩を重ねるたびに、三波への好きがまた積もっていくような気がした。

    きゅん

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  4. 私があいつに告白した三年後、あいつは街を出ることになった。

    「嫌いだから、早く行ってよ」
    私を見つめるその瞳に耐えられなくなってそう言った。

    「もうあんたのこと嫌いなの」
    追い討ちをかけた言葉は自分を傷つけた。

    きっとバレてしまう。
    私の嘘なんてあいつは見破ってしまう。

    「大嫌い」
    全てを隠してくれる言葉に頼った。

    「うん、わかった」

    最後まであいつは優しい。
    最後まで私はカッコ悪い。

    新幹線に後ろ姿が消えて行く。

    ドラマや映画で見る電車を追いかけるシーンなんて所詮フィクションだ。
    新幹線なんて追いかけられるわけがない。

    あいつは振り返らない。

    「嫌い」
    もう一度小さく呟いた。

    もうあいつは見えない。

    頬を伝う涙はやけに冷たい。

    本当はわかってる。

    もう見えないけど。
    本当はずっとずっと。

    「大好き」

    やっと言えた本心は発車した新幹線にかき消された。

    きゅん

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  5. ホワイトデー。

    そんな甘い響きのイベントはチョコをあげた人にしか関係がない。
    私と尋の間には縁のないイベントだ。

    尋にあげても食べないから、私はバレンタインをあげないし、お返しもない。

    「愛弓、これあげる」
    そのはずだったのに、尋は私に小さな紙袋をくれた。

    淡い水色の紙袋には私たちの間には普段ない甘酸っぱさが詰まっていた。

    「何これ?今日、ホワイトデーだよ」

    「だからこれホワイトデー」

    「あげてないのに?」

    目と目が合った瞬間、逸らされる。
    「っ一年も待てるかよ」

    『来年は作れよ』
    バレンタインの尋の言葉が頭の中を反芻した。

    「私、尋からもらってばっかりだね」
    そんな言葉で恥ずかしさから目を逸らした。

    「じゃあ愛弓の時間、俺にちょうだいよ」

    「時間?」
    予想外の言葉に首を傾げた。

    「俺の彼女になってってこと」
    その瞳に掴まった。
    やっぱり尋の頰は真っ赤だった。

    きゅん

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  6. 「隆弘、これ麻奈に渡しといてよ」
    廉が俺に押し付けたクッキーは俺の鞄に眠っている。

    「今日美化委員で掃除あるんだって」
    そう言った麻奈はいつも通りだった。

    今日がホワイトデーだってこと麻奈が忘れていればいい。

    俺は最低だから。

    廉から預かったクッキーを麻奈に渡していない。

    麻奈を振って傷つけた廉を許せない。
    そんな身勝手な理由でホワイトデーを隠している。

    花壇をいじる麻奈の指には廉とお揃いでつけていた指輪の跡が残っている。

    早くその跡が消えてしまえばいい。

    「麻奈、桜ついてる」
    そんな気持ちを隠して麻奈に触れた。
    今年初めての桜だった。

    「これやるよ」

    「何それー?意味わかんない」

    これは俺なりのホワイトデー。
    麻奈がくれる笑顔のお返し。

    「でも綺麗だね」
    麻奈が微笑んだ。

    すぐに消えることは望まないから。
    少しずつでいいから麻奈に俺といた証が増えていけばいい。

    きゅん

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  7. たくさんの涙と笑顔が混ざり合った今日が終わる。

    「綾芽、泣かないでよ」
    泣き笑いのような表情を浮かべた友達が言う。

    だって今日で終わる。

    約束しなくても大好きな人たちと毎日会えていた日々が終わる。

    大好きなあいつに会えなくなる。

    「彰と彼女同じ大学なんでしょ?」

    「本当仲良いよね」

    だけど想い続けていても仕方ないから。

    「私も彼氏欲しいなあ」

    秘め続けた彰への恋心も今日で終わりだ。

    「綾芽!」

    振り向いた先にいた彰には、桜の花びらが降りかかっていて。

    諦めようと思ったはずなのに綺麗だと思ってしまった。

    「俺、綾芽が好きだ。お前の彼氏にしてください」

    ようやく前を向こうと思ったのに。

    「バカ」

    「ごめん、でも本気なんだ」
    私をまっすぐに見つめる彰の瞳は見たことない色で揺れている。

    「私も好きだし」

    卒業式の日。
    3年間の私の恋が不恰好に花開いた。

    きゅん

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  8. 告白してきたのは彰からだった。

    彼氏がいて、彼氏と同じ大学に行けて。
    最強の武器を纏って見える私は、幸せじゃない。

    「ねえ、彰」
    私を見ない彰。
    その視線の先には、やっぱり綾芽ちゃんがいた。

    私より彰と仲が良くて。
    私より先に彰を呼び捨てにしていて。

    そんな綾芽ちゃんに彰を取られるのが怖かったから、アピールを重ねた。

    私はずるい。

    綾芽ちゃんのことも好きだったくせに私に告白した彰もずるい。

    そんな私たちだからお似合いなんだと信じてた。

    だけど、もう限界だった。

    「彰、別れよう」
    彰に告白された靴箱。
    かりそめの幸せを手放した。

    「綾芽ちゃんのとこ行きなよ」

    「ごめん、じゃあな」

    大好きな後ろ姿が遠ざかる。

    もう二度とその瞳に映ることはない。

    桜が散る。
    きっと私の想いはこんなに綺麗じゃない。

    滲む視界に光る空の青さと鮮やかな桜色は痛いほどに眩しかった。

    きゅん

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  9. 広い広い校内で、ようやく先輩を見つけたのは卒業式の日だった。

    姿を見るだけで、その声やその匂いが呼び起こされてしまう。

    やっぱり好きだなんて卒業式の日に気づいても手遅れなのに。
    私は先輩から目が離せない。

    先輩がこの学校からいなくなる。
    今日は私が先輩から卒業する日でもある。

    先輩と会って初めて生まれた感情や、先輩がくれた優しさ。
    そんなものが今の私を作った。

    伝えたい事はたくさんあるのに私は、先輩を見つめることしかできない。

    「千尋、帰るよー」
    友達が私を呼ぶ声が聞こえた。

    最後に先輩を見た。
    シャッターを切るように、笑顔の先輩だけを校庭から切り取った。

    醜く散るくらいなら、綺麗なまま閉じ込めておいた方がいい。

    もう振り返りはしなかった。

    私の中の先輩がいつまでも色褪せませんように。

    秘めた想いは涙となって、散った桜をそっと濡らした。

    きゅん

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  10. 春が来るということは、君との別れが近づくということ。

    「もうすぐ卒業だな」

    放課後の屋上は青春と背徳感が混ざったような匂いがする。

    「だね。もうここも寒くないもんね」

    「来年から屋上入れなくなるらしいよ」
    俺らのせいかな?と言う横顔は私には見えない未来を見ている。

    「早く大学生になりてーな」
    春になったら、君は県外の大学に行ってしまう。

    「でも高校生が終わるの寂しいよ」

    君がいなくなるなら、春になんてならなくていい。
    寒いねと肩を寄せ合ったあの冬がずっとずっと続けばいいのに。

    「俺さ、ここ好きなんだよね」

    「うん、知ってる」

    「だからここで会おーよ」

    「えっ」

    「こっちに戻ったら連絡するから、ここで待ち合わせしねえ?」

    「俺、鍵持ってんだ」と君は笑った。

    「うん!」

    思い出になると思っていた場所で、新たな約束が生まれた。

    別れじゃない。

    春は始まりだった。

    きゅん

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  11. 壁打ちをしている柚木くんは音楽室の四角い窓にぴったりと収まっている。

    太陽に照らされた柚木くんは眩しい。

    「戸崎さん!」
    私に気づいた柚木くんは、手を振ってくれた。

    真剣な表情を浮かべていた顔を綻ばせる、その瞬間が好きだ。

    「今日って部活の日?」
    柚木くんの声はまっすぐに私の元へ届く。

    「自主練してるのー」

    「本当、好きなんだね」

    本当は私が自主練をしているのは、ホルンが好きだからだけじゃなくて、柚木くんが好きだから。

    頑張る柚木くんを見たいから。



    見上げた窓にはホルンを吹く戸崎さんがぴったりと収まっている。

    ホルンを吹く戸崎さんは綺麗だ。

    「柚木くんも自主練でしょ?柚木くんこそテニス大好きじゃん」
    笑う戸崎さんをもっと近くで見たいと思う。

    本当は俺が自主練をしているのは、テニスが好きだからだけじゃなくて、戸崎さんが好きだから。

    頑張る戸崎さんを見たいから。

    きゅん

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  12. 「葉山先生、貰ってくれないらしいよ」

    職員室の入口、友達の言葉に足が止まる。

    貰ってくれないなら、あげるの諦めよっかな。
    そう思った時だった。

    「岡田、どうした?」
    その声と瞳に私は掴まった。

    「いや、あの」

    「学校にチョコ持ってきちゃダメだろ。没収だな」

    「…貰わないんじゃないんですか?」

    「でも没収じゃもったいないもんなあ」
    私の言葉をスルーした先生は、あろうことか私のチョコを食べた。

    「うまいじゃん」
    私が作ったチョコで先生が笑った。
    そんなことでまた好きが募る。

    “好きです”

    袋に貼ったメッセージ。

    応えてくれないのはわかってる。
    それでもどうしても伝えたかった。

    「ありがとな。来年の3月楽しみにしてろよ」

    ホワイトデーは今年もあるのに。
    先生の言葉に私は首を傾げた。

    いたずらっぽく笑った先生は私に耳打ちをした。

    「岡田が卒業したら、返事するってこと」

    きゅん

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  13. 「春花ちゃんって可愛いよな」

    廉が言ったあの日から、何かが少しずつ壊れ始めた。

    春花にアプローチもすることなく、私と付き合い続けた廉。

    ずるくても、嫌いになれなかった。

    でも、もう限界。
    昨日、バレンタインチョコを春花に催促する廉を見てしまったから。

    「別れよう」
    だから私は言った。

    「なんで?」

    「嫌いになったんじゃない。廉のことが好きかわかんないの」

    意味深な言葉を言ったのはわざと。
    そうすることで廉が少しでも長く私のことを考えればいいのになんて思ったから。

    だけど廉の表情は変わらない。

    「作ったからこれだけもらってくれない?」
    だから、このくらいの身勝手は許してよ。

    甘いものが苦手な廉にホワイトチョコのカップケーキを押しつけた。
    微かに触れた廉の手は冷たかった。

    「じゃあな」
    廉はやっぱり止めない。

    春を告げるような軽い風が、二人の間を切り裂いていった。

    きゅん

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  14. 「有田さんはチョコ作んないの?」
    「あげる人いないから」
    「じゃあ俺に作ってよ」

    あんな会話、真島くんはたぶん覚えてない。
    それでも作ってしまったのは、本当はあげたかったから。

    だけど直接は渡せなくて、真島くんの鞄にこっそり入れた。
    たくさんのチョコの中に私の想いも潜めるように。

    「有田さん、チョコありがとう」
    次の日の朝、声をかけてきたのは真島くんだった。

    「なんでわかったの?」

    「名前書いてないのが一番美味しかったから。有田さん料理部でしょ?」
    本当に君は人のことをよく見ている。
    だから期待しちゃうんだよ。

    「ありがと。真島くん、いっぱいもらってたね」

    真島くんは誰にでも優しい。
    だけど私は優しくされたいんじゃない。

    私は真島くんの一番になりたいのに。

    「作ってって言ったのは有田さんにだけだよ」

    えっ。

    意味深に笑った真島くんの笑顔はチョコレートのように甘かった。

    きゅん

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  15. 「愛弓、これあげる」

    当然のように尋は私に紙袋を差し出す。

    尋のチョコの消費は決まって私の仕事だ。

    「はいはい」

    チョコを食べたら、尋を好きな子の気持ちまで食べてしまえるならいいのに。

    ああ、ダメか。
    そんなことしたら私の気持ちだけがどうしようもなく大きくなっちゃう。

    「ちょっとは食べればいいのに」

    見本のように綺麗なチョコに可愛いラッピング。
    あげた子たちの気持ちに胸が痛くなった。

    「いらねー。まあ好きな子のなら食べるけど」

    「えっ?」

    「味より誰が作ったかが大事じゃん」

    真剣な尋の言葉に声が出せなかった。

    そっか。
    好きな子くらいいるよね。

    「その子に来年はちょうだいって言ってみれば?」

    「じゃあ愛弓、来年は作れよ」

    「…私?」
    気づけば尋は立ち止まっていた。

    「お前がくれるの何年待ってると思ってんだよ」
    振り向いた尋の横顔は夕焼け色に染まっていた。

    きゅん

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  16. 「葵、チョコくれねーの?」

    「なんであげなきゃいけないの?」

    意識すればするほど、冷たくなってしまう。

    この冬一番と言われた今日の気温より、私の態度は冷たい。

    作らないわけないじゃん。
    でも、何度作っても綺麗にできなかったから、礼央にあげるの諦めたの。

    おかげで想いが詰まった友チョコが大量にできてしまった。

    「他の子から私のより上手なのもらえるじゃん」

    「やっぱ作ってくれたんだ」

    あっ。
    口を滑らせた私に礼央はニヤッと笑みを浮かべる。

    「失敗作だよ」

    「どんなに下手でも葵が作ったのなら、食べたいんだけど」

    えっ?

    「葵が作ってくれたってだけでいいの」

    屈託のない笑顔に胸が高鳴る。
    そんなこと言うから、下手なのに毎年作っちゃうんだよ。

    「ありがと」

    「何が?」

    「バーカ」

    ああ、やっぱり礼央が好きだ。

    来年はもっと上手に作るから。
    来年も私の隣にいてね。

    きゅん

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  17. 青い空を真っ二つにする飛行機雲。
    麓の見えない鮮やかな虹。
    夕焼けで染まる君の横顔。

    綺麗なものはどうして手に入らないんだろう。

    「ごめん。彼女できたから」

    手が届かないと知った途端、余計に君が綺麗に見えた。

    その瞬間、気づいてしまった。
    絶対に届かないから綺麗に見えるんだってこと。

    おめでとうも言えなくてごめん。

    苦しくて、あまりに苦しくて、声を出せなかったの。

    ねえ、諦めないとダメですか?

    君は変わらず綺麗なのに。

    俯いた私の視界に入ったのは水溜り。
    濁った水を溜めた水溜りは、私のようだった。

    ああ、そっか。

    君といるとき私は上を見てたんだ。
    だから、綺麗なものばかり見えたんだ。

    涙を堪えて顔を上げた。

    手に入らなくても、見ていたかった。

    君も同じ空を見ているかもしれない。

    君と見た日のような空の輝きに、やっぱり好きだと胸が鳴った。

    きゅん

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  18. 始めの言葉で試験は始まる。
    ピストルの音で駆けっこは始まる。

    だけど恋には始まりの合図がない。

    「松尾?」

    学校の帰り道、その声が聞こえた。

    もう好きじゃないはずの君の声に、私の胸は痛いほど弾んだ。

    「久しぶりだな」
    卒業式以来?と首を傾げる君は、私の大好きな君のままだった。

    「うん」

    君の目を見ているだけで苦しくて、それだけしか言えなかった。

    「元気なくね?大丈夫か?」

    この優しさが好きだったんだ。
    隠れていた想いがふつふつと溢れ出す。

    「全然大丈夫。元気だよ」
    君の目は見れない。

    君は強い引力でも持っているのだろうか。
    いつだって光のような速さで私の心を捕らえてしまう。

    「またな」

    後悔したって遅い。
    もう恋は再開していた。

    またなんて来たら、もっと好きになってしまうから。
    もうこの想いは風化してほしいから。

    私は大好きな君に言った。

    「バイバイ」

    きゅん

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  19. 「太田?」

    私を呼んだのは長身で整った顔の男子。

    面影はないのに、なぜかあいつだとわかった。

    「北山、なんで?」

    いつも言い合いばかりしていた小学校の同級生。
    「北山くんと仲良いね」と言われるたび、「違う」と即答していた。

    「いや太田がこの高校だって聞いたから」

    「だから何?」

    目を伏せた北山の長いまつ毛に一瞬見惚れた。

    「俺、太田のこと好きだったんだ」

    理由になってないとか。
    なんで今なんだとか。

    言いたいことはたくさんあったのに、大きく弾む心臓が喉を塞ぐようで。

    声を出せなかった。

    嫌いだと思ってた。

    だけど、私の小学校の記憶にはいつも北山がいて。
    些細な会話すらはっきり覚えていて。

    感情が一瞬で塗り替えられていく。

    「返事、考えといて。また明日ここ通るから」
    あの頃より低い北山の声が心地良い。

    その言葉で明日が楽しみになったなんて、北山には秘密だ。

    きゅん

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  20. 冬休み、彼氏の勇輝には一回しか会えなかった。

    会えない辛さと連絡する勇気のない自分への嫌気だけが膨らんでいった。

    今日はいよいよ始業式。

    雪道をシャクシャクと音を立てて進むごとにわだかまりが少しずつ溶けていくようだった。

    だって今日は勇輝に会える。

    「ひゃっ」
    不意に首筋に冷たいものが触れた。

    「ビビりすぎだろ」
    笑いながら私の顔を覗き込むのは勇輝。

    「久しぶり」

    「そう?」

    勇輝は寂しくなかったのかな。
    上を向いていた視線は自然と下に向かう。

    「彩佳、こっち向けよ」

    「勇輝は寂しくなかったの?」

    「バカ。俺だって会いたかったし」
    勇輝の声はいつもより甘く聞こえた。

    「私はたぶん勇輝より会いたかった」

    「俺の方が会いたかった」

    たった二週間会ってないだけなのに、私たちはバカみたいだ。

    だけど幸せだからいい。

    たった二週間でも私たちにとっては再会だ。

    きゅん

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  21. 吐き出したため息は、私の前を白く染めた。

    この駅を通ると、君の後ろ姿が瞼の裏に浮かぶ。

    特にこんな雪の日は。

    嫌いになりたい。
    そう思えば思うほど、君のことを考えてしまうなんて皮肉だ。

    「白崎さんって雪似合うね」

    「私、そんなタイプじゃないよ」

    「なんで?白崎さん、可愛いじゃん」

    好きになったのは一瞬なのに、忘れるのはこんなにも難しい。

    「白崎、じゃねーの?」
    後ろから聞こえた声は、行き先の定まっていない紙飛行機のように、頼りなく彷徨っている。

    聞き間違えるはずがない。
    君の声だ。

    「…もう会えないと思ってた」

    「なわけねーじゃん」

    「あんたのこと忘れたかったのに」

    「俺は雪見るたびに白崎のこと思い出してたよ」

    ああ、ずるい。

    忘れられるわけない。
    たぶん一生忘れられない。

    だって雪は毎年降るんだから。

    こんなにも君が好きなんだから。

    きゅん

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