ケータイ小説 野いちご > 野いちご学園

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  2. 身体を軽く揺すられたのがわかった。続けて、ごめん、という彼の声も。
     放課後、彼が保健委員の仕事で居残ると言うから、私はそれが終わるのを待っていた。
     保健室のふかふかのベッド。
     窓からの涼しい風。
     柔らかな彼のペン先の音。
     全てが心地良くて、気がついたら眠っていた。
     彼とふたりでいられる時間だったのに、勿体ないことをした。
     目を開くと、起こしちゃったかな、と優しく眉を下げる彼がいる。
    「んーん。どうしたの?」
    「てんとう虫が君の制服についてたんだ。窓から入って来ちゃったのかな」
     ほら、と見せられた彼の指先には小さなてんとう虫。
    「てんとう虫は幸福の前兆なんだって。良いことがあるかもしれないね」
    「じゃあ、見つけた人にも良いことがあるかも」
    「俺は……もう、充分すぎるくらい幸せだよ。好きな子が傍にいてくれるんだから」
     少しはにかんだ彼の頬は、ほんのり赤く染まっていた。

    きゅん

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  3. もし、本当に贈り物をくれるサンタクロースがいたとして。
    きっと、皆はこぞってお願い事をするのだろう。アレが欲しい、コレが欲しい、と。

    それでも、私は願えない。
    私の欲しいものが、もし物という定義に含まれるとしても。

    純白の結晶が舞い落ちる、聖なる日。

    放課後、静寂を纏った教室から窓の外をうっかり覗き込んだせいで、ふと願ってしまった。

    願ってはいけないことを、願ってしまった。

    寒さのせいか、寂しさのせいかーー。

    手を繋ぎ、彼の隣を歩く親友を、羨ましいと思ってしまった。

    あそこにいるのが自分ならいいのにと、思ってしまった。


    もし、本当に願いが叶うなら。

    どうか、今日だけ許してください。

    彼を少しの間だけ見つめていることを。

    振り向いて欲しいなんて言わないから。
    隣にいたいなんて、もう願わないから。

    だから今だけ、彼の時間をほんの少し私にくださいーー。

    きゅん

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  4. 「‥‥疲れたあ」

    テストに、委員会。
    今日はやることが多かった。
    ちょっと休もう。


    「‥‥お‥‥み‥お‥‥‥澪?」

    私の名前を呼ぶ好きな人の、陽向くんの声。
    いつの間に寝てたんだろ。

    「寝てんのか?」

    すごく優しい声。
    いつもは怒った口調で、そんな風に話しかけないのに。

    「無防備すぎんだろ」

    あ、普段の不機嫌な陽向くんだ。
    いや、ちょっと違うかも。
    子供っぽい、拗ねた口調。
    陽向くんの指が私の髪の毛を掬う。
    その指はそのまま耳をなぞって、私の頬を壊れものに触れるように包み込んだ。

    「俺のこと、好きになんねぇかなぁ」

    優しくて、切ない響き。

    「‥‥‥すき」

    「スキ」

    「ホントは、お前が好きなんだ」

    耳許にかかる甘い声。
    初めて彼の口から聴いた、好きの言葉。

    コツンと額同士をくっつけ、

    「‥‥だいすき」

    彼は、そうもう一度甘く囁いた。

    きゅん

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  5. 「ねぇ、"ピアノくん"」

    扉越しに聴こえる彼女の声。
    彼女は"ピアノくん"が誰であるか知らない。
    ひょんなことから、僕は彼女の恋愛相談に乗っている。とは言え、僕は気の利いた返事をする訳でもなく、ただピアノを弾いて彼女の語る言葉に耳を澄ませているだけ。
    それが彼女の望みだから。

    「今日の曲はなんだか悲しいね」
    (それはきっと、君の心が悲しいからだ)

    ぐず、と鼻をすする音が聴こえる。
    それだけで胸がつきん、と痛みを訴えた。

    「私、振られちゃったんだぁ。あはは、こんな泣いて、馬鹿みたいでしょう」
    (君の悲しい音は聴きたくない…)

    馬鹿なんて思うわけがない。君が彼をどれくらい想っているか、僕はずっと聞いていた。
    できることならいっそ馬鹿にしてやりたい。
    そんな男やめて僕にしとけば良かったんだって。
    けれど、
    ーー綺麗な音色。また聴かせて。
    彼女の冴えない僕への唯一の望みはそれだけなんだ。

    きゅん

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  6. あれ?今日先輩いないんだ。
    なかなかクラスに馴染めなかった私は、よく図書室に通っていた。そんな私に声を掛けてくれたのが図書委員の先輩。今では先輩のアドバイスのおかげクラスにも馴染めたけれど、こうして先輩を探しに未だにここへ来てしまう。

    「先輩に会いたいなぁ……」
    「なんで?」

    後ろから伸びてきた手が私を抱きしめた。

    「せ、先輩?!」
    「今日本当は休みなんだけど、君がいるかなと思って来ちゃった」

    目尻が下がった柔らかい笑顔。
    私の身体はすっぽり先輩に包まれてしまう。

    「なんで俺に会いたかったの?また困ってる?」

    力になるよ、なんて言って頭を優しく撫でてくれる。

    「困ってるって言ったら、助けてくれますか?」
    「うん、君のためならなんでもするよ」
    「先輩が、好きです。好き過ぎて困ってます」
    「……じゃあ俺が責任とんなきゃだね」

    ちゅっという短い音と共に、額に柔らかな感覚が走った。

    きゅん

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  7. 「おい!」

    階段を降りていると、後ろから呼び止める声が。振り返ると、そこには私の好きな人。息を切らして、急いで走ってきたことがわかる。

    「ど、どうしたの?なにかあった?」
    「お前、なんで最近俺のこと避けてんの?」

    彼のことが好きだと気がついたのはほんの数日前。それに気づいたら恥ずかしくて避けるようになってしまっていた。

    「そんなことないよ」
    「避けてるだろ。……俺とは目合わせるのすら嫌なのか」
    「ちがっ」
    「じゃあこっち見ろよ!」

    壁際へ追い込まれて逃げ場を失ってしまう。

    「俺、なんか嫌なことした?……お前にだけは嫌われたくねぇ」
    「え、それって」
    「お前が好きだ」

    真っ直ぐ交わった視線が逸らせなくなる。

    「私も、好き」
    「えっ……え?ホントに?」

    頷くと、彼は顔を優しく緩めて私をぎゅっと抱きしめた。

    「良かった……もう避けたりすんなよ。嫌って言っても側にいるから」

    きゅん

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  8. 具合悪い……
    保健の先生、今いないのか。
    ちょっとだけベッド貸してもらお。
    そう思ってベッドに向かうと、先に同級生の男の子が眠っていた。
    同じクラスだけど話したことないし、ちょっと気まずいかも。
    暑いけど、カーテン閉めなきゃ。

    シャーッ

    「いいよ。閉めなくて」

    その音で彼が目を開けた。

    「え、でも」
    「俺ただのサボリだから。君、ホントに気分悪そう。外出中の札掛けてあるし、よっぽど具合悪いとかじゃなきゃ誰も入ってこないからカーテン必要ないと思う。ちゃんと休んで」
    「あ、りがとう」
    「こんなときくらい、何も気にしないで目いっぱい甘えればいいんだよ」

    スッと伸びてきた手に思わず目をきゅっと瞑ると、彼の手が私の頭に優しくぽんぽんと触れた。
    そして、私をベッドに寝かせ冷却剤を持ってきてくれた。

    「お大事に」

    彼は柔らかく微笑み保健室を後にした。

    きゅん

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  9. あ、ヤバい。目が合っちゃった。
    下校中友達と話していると、正面から知らない男子学生がふたり歩いてきた。
    あの制服、不良校で有名なK高だ。髪染めているし、ピアスいっぱいついてるし、制服ダルダルに着てるし。すれ違うだけでも怖い。
    なにか持っているのが見えてチラッと横目で確認する。暑いわけでもないのに箱アイス?疑問でジッと見ていると、

    「食べる?」

    声を掛けられた。

    「へ?いや、あの、」
    「ははっ!そんな困らせたかったわけじゃないんだけどな」

    見た目にそぐわない、可愛い笑顔。
    突然伸びてきた彼の手に、なにをされるかわからず怖くてぎゅっと目を瞑る。身構えた瞬間、頭に柔らかな感覚。

    「ごめんな。可愛かったから、つい声掛けちゃっただけ」

    予想外の優しい手に、心臓が跳ねる。

    「じゃあな」

    私の頭を柔らかく撫でた手と、眉尻の下がった笑顔からは怖さは微塵も感じず、ただ彼の優しさが溢れていた。

    きゅん

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