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Side:
    .+*麻生 久遠*+.
    .+*Kuon asou*+.










ここなら……この旧校舎で、しかも狭い通路なら、誰に見られることもないだろう。

そう思い、俺は彼女を腕に押し込めた。


遠くから、睦(あつし)と紀美子(きみこ)がぼくの腕の中にいる彼女を心配して呼び続けている。


ごめん。

もう少しだけこのまま……。






気がつけば、睦と紀美子の声は聞こえなくなっていた。


どうやら違う場所を探しはじめたようだ。


ふたりには後で、手鞠(てまり)ちゃんと一緒に居るとメールでもしておこう。




いったいどれくらいの時間をこうしていただろう。



そう思ったのは、腕の中にいる彼女がもそもそと落ち着きなく動き始めたからだ。

もう少し、今おかれている自分の立場を無視して愛おしい彼女を腕の中に入れておきたい。

だが――――彼女はもう、限界のようだ。


ソワソワしはじめている。






彼女はもともとひとつの場所に納まるような女性ではないと思っていたし、

そういう穏やかな女性ではないとも思っていた。