封を開ける無機質な紙の掠れる音が周囲を包む中、そこに見えたのは……。


1万円札だ。

しかも1枚だけではなく、束になって姿をあらわした。



ざっと見ただけだが、おそらく30枚以上はあるんじゃないだろうか。

とてもではいが、こんな小さなカバンに入れておけるような金額じゃない。


彼女はどこかのお嬢様か何かなのか?

美樹ちゃんの装いを頭の中で思い浮かべてみても、ほとんど一般の人間が着るような服装だった。


どういうことだ?

彼女はいったい何をしたんだ?



わからない。


盗難したのか?

騙し取ったのか?




――人間というのはおかしな生き物だ。

一度その人を疑いはじめると、次から次へとやって来る疑念にとりつかれてしまう。

ぼくの頭の中で良からぬ空想が肥大していく――……。




しかし、そんな良からぬことを仕出かした後で平然と子供と笑いあったりできるものだろうか?




――いやいや待て。

彼女は祈と笑っている間も少し陰のある表情をしていたではないか?


窃盗などの可能性はあるんじゃないか?


だが、本当にそうと言い切れるのだろうか。



ああ、しかし、ぼくは祈の父親だ。

子供の命を守るのがぼくの役目じゃないか。


今は亡き妻の沙良(サラ)の墓前で、この世を去っていった沙良の分まで祈を大切に育てると彼女にそう誓ったではないか。


そうだ、祈はぼくの宝だ。

そして亡き妻、沙良の忘れ形見でもある。

彼女には、一刻も早くこの家から出て行ってもらわなければならない。



たとえ、ぼくの胸が押しつぶされそうに痛み出したとしても……。