side:Miki Morimoto



つわりのことを知られたかもしれないその日、だけど潤(ジュン)さんのお母さんはそれ以上追求しては来なかった。

とりあえずほっと胸を撫(ナ)で下ろしたのも束の間――。

その日の夜、潤さんが仕事から帰宅した時に事態は大きく変化した。


潤さんの様子が今朝の出勤前と違っていたんだ。

というのも、いつもならあたしが話しかけると彼は優しく笑いかけてくれるのに、今日に限っては何かを考え込んでいるかのように、あたしが尋ねても「うん」とか「ああ」とかのふたつ返事で、ずっと上の空だった。


いったいどうしたんだろう。


仕事先で何かあったのだろうか。

なんて、しかめっ面の潤さんの顔色をうかがっていたけれど、まさか彼にその顔をさせているのがあたしなんだとはその時は気がつかなかった。


それが判明したのはその日の夜、祈(イノリ)ちゃんが眠ってからのことだ。


あたしはいつものように夕食の後片付けと、それから明日の2人分のお弁当の下準備をしていた時――……。


「どうして言わなかったんだ!?」

今日、仕事から帰ってきてからずっとしゃべらなかった潤さんは突然重い口を開け、あたしに尋ねてきた。

とても短い彼の話は、あたしが『何を』言わなかったのかという内容を指し示す言葉が抜けている。

――にもかかわらず、あたしには彼の言っているこの言葉が何を示すのか十分に理解できた。