眠い。

……眠い。

…………眠いー!



私──皆本蝶子は、持っていた生物のテキストで口元を隠すと、ひとつ大きなあくびをした。



朝からこれで何度目だろう?

あくびをすると、涙だけじゃなくて何故か鼻水まで出ちゃうからかっこ悪い。

私はスンと鼻をすすった。



私が今いるのは学習塾。

教室のシンプルな壁時計に目をやると、それはもうすぐ九時を指すところだった。


いち、に、さん……。

あーあ。

陽人とのデートまで、あと四時間もあるんだ。


ここ最近、年度末試験や進路相談に陽人の部活等、何かと慌しく過ごしていた私たちにとって、今日は待ちに待った久々のデート! 

……だというのに。


昨日の夜、私は塾の予習そっちのけで、「明日はどこに行こうかな」って、新色のマニキュアを塗りながら楽しいデートに思いを馳せていた。

そんな時、かかってきたのは陽人からの電話。

だけど、大好きな恋人との会話は、想像していたような甘く楽しいものにはならなかった。



……全く、あの馬鹿カップル、人の部屋で何やってんだか!