「すいません、ちょっといいですか?」


怪しいリュックを背負った人が近づいてきて、般若心経を書かされた。

素直に書いてしまう自分が恨めしい…


でもオニイサン、修業を人任せにしていいの?


そんなことを思いながら、立ち去る後ろ姿を見送る。



「あのぉ、今ちょっと時間いいですか?」


カットモデルを探す美容師さんに声をかけられる。


名刺を握らされて、笑顔で去るオネエサンを見送る。


これ以上、どこを短くするのさ…



「エクスキューズミー?」

英語で声をかけられる。

何を言ってるのか分からない。

からとりあえず、義務教育で取得した唯一の英語

(ぱーどぅん?とぷりーずもぁすろぅりー)

を繰り返してみる。


やっと理解したのは、山手線に乗りたいらしいこと。


駅は目の前だっつーの。


げんなりガイジンサンに手を振って見送る。



腕にはめた時計が二週半も走ってくれたおかげで、腕が重たい。


ため息一つこぼして、時計をにらむ。

このご時世に、遭難したような気分になるね。

お金がないのは分かるけど、早くケータイ復活させてよね。



ぶつくさ文句を言いながら、コートのポッケに手を突っ込む。

くしゃり、と紙の音がして、中身を引っ張りだす。


暇つぶしに開いてみた。


レシートの山は、コンビニにファミレスにマック…

…ろくな食生活じゃないな。


げんなりと一緒に、ゴミ箱に突っ込もうとしたら、ひらりと一枚が落ちた。


よっこらせ、と屈んでつかんだのは、いつだかに引いたおみくじだった。

目についた文字に、思わず乾いた笑いが浮かぶ。



『待ち人 来る、遅し。』