先生の腕、毛深いな。

こういうとき、笑えてくるんだ。

うっすらと、そんなことを思った。

先生が、丁寧に言葉を選んで説明していたのを、聞き流した。


一番最初に、口から出た言葉は

『先生、バイトは辞めなきゃダメですか?』

だった。


一瞬、言葉をなくした後

『体に負担をかけることはなるべく控えてください』

なんて、遠回しな言い方をされた。


どうして、死ぬ気か?って言わなかったんだろう?

そうすれば、少しはあたしにも理解できたかもしれないのにね…


心の中でだけ呟いて、病院を後にした。



家に帰るのが苦痛で、そのまま電車に乗った。

こんな状態でも、知らない場所へは行けないことを自嘲しながら、

赤い電車が動きだすのを待った。


終点まで行ったら、電話しようそれだけ決めて、

端っこの座席に座って、手すりに寄りかかった。



ケータイを片手に、電話帳を開く。

名前を一人ずつ見ながら、

今、自分が死ぬんだ、と言ったらどんな顔をするか想像した。

頭の中だけで相手を傷つけて、記憶を消去した。

一緒にメモリも消去した。


八人目で、指が止まった。


メールを開いて、返信ボタンを押す。


助けて、と打って消した。

あたし、病気みたい、と打って消した。

今までありがと、と打って消した。

愛してるよ、と打って消した。


たまらなくて、ケータイを閉じた。



言えない。

言えない。

何も言いたくない。