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一枚の紙を眺めていると、気持ちが沈んでくる。
どうしようかな、と小さく呟くと由美子が目の前にあらわれて「まだ悩んでるの?」と笑う。
だって……そう簡単に決められない。
中学3年生になってそうそう、担任から配られたのは志望高校を記入する紙。一気に受験が近づいてきて気持ちが追いつかない。
この前中学生になったばかりだったのになあ……。なんか、あっという間だ。勉強が変わって、制服になっただけ。あんまりなにも変わっていないよね。
変わったことはといえば……巽との関係くらいかな。
って言っても、仲がよくなったわけじゃないけど。
相変わらずケンカはするし。ただ、前より大声でケンカすることがなくなって、私もそこまで大嫌い!って思うこともない、かも。
ケンカが減った分だけ、会話をすることも減った。
でも、なんとなくバレンタインだけはちゃんとあげた。一昨年と違って、去年はおばさんに渡したんだけど。
2年になって、副キャプテンになったらしく忙しいらしい。
待っていても会えなかったり寝たりしてて、結局おばさんに渡すしか出来なかっただけ。
巽からのお返しも、渚ちゃんから受け取った。
よく考えたらここ数ヶ月、遠くから見かけるくらいだったような。
選択授業が増えると授業の違う巽とは隣のクラスでも接点はなくなっていたし、朝も夜も意識しなくても会うことはなくなった。
私はクラブが終わった後に塾に通いだしたっていうのもある。
まあ、これでいいんだろうけど、ね。
「まあまあ、そんなことよりさ。ひとつ美咲に報告があるんだけど」
「報告?」
手元の紙を机にぱたんと置いて、顔を上げる。
由美子は少し恥ずかしそうにしてから「実はね」と言った。