……ほんと、俺は根性なしだな。
待ち合わせ場所の喫茶店で、ひとり座りながら自分の右手を見つめる。

昨日からずーっとこんなこと考えてばっかりだ。

結局、好きだ、とは言えなかった。
まあ、言ったところで、なにかが変わったなんてことはなかっただろーけど。

美咲が無言なのをいいことに、言い逃げしてるんだもんなあ、俺。
っていうか、あのタイミングで拒否を口にされるとかまで勇気なかったんだけど。


「かっこわりいな、俺」


はあっとため息を落としながらつぶやくしか出来ない。

今頃は、大樹と旅行を楽しんでいるんだろう。それを考えだすと、嫉妬で脳みそ破裂しそうなんだけど……仕方ねえことなんだよなあ。

でもまあ……スッキリはした。なんつーか、イライラしている自分を受け入れられるだけマシかな。
いつまでこんなかんじで過ごさなきゃなんねーんだろっていう憂鬱さもあるけど。それも、ま、仕方ねえか。


「ごめん、遅れて」


頭上から聞こえてきた声に、びくっと身体が震えた。
顔を上げて「いや」と答えると、彼女、沙知絵はなんとも言えない笑顔で俺の前の席に腰を下ろす。

……まさか、本当に来てくれるとは思ってなかった。

呼び出したのは俺なんだけど、あんなことがあった後だから……。
昨日電話してすぐに出てくれたことにも驚いたけど、今日も約束して本当に来てくれるなんて。

本当は、電話に出てくれないだろうし、会ってもくれねえだろうと思ってた。

目の前の沙知絵は、ちょっと元気が無いけれど、俺を見ると微笑んでくれる。それを見るたびに、胸が痛む。

店員にカフェオレを頼んだ沙知絵がメニューを閉じたと同時に、頭をさげた。


「……ごめん」


これ以上、言える言葉はない。
ただ、謝ることしかできないことに、不甲斐なさを感じる。