自分で言うのもなんだけどさ。
自分が女の子らしくないっていうのはわかってるんだ。





小学4年生になる前の春休み。
私と弟の隆太(りゅうた)は、期待に胸をいっぱいにして新しい家を見上げた。

つい先週まであれほど引っ越しを嫌がっていたっていうのに。真新しい家を見るとまだかろうじて残っていた憂鬱な気持ちが春風と一緒に吹き飛んでいく。


「どーだ! 隆太、美咲(みさき)! 大きいだろ!」


お父さんが車から降りてきて自慢気にそう言った。

難しいことはよくわからないけど、この新しい家はお父さんが頑張って建てたらしい。だから引っ越しも我慢しようね、とお母さんが言っていた。

前の家はマンションだったから、確かに大きい。

家の中に階段があるのは憧れだった。しかもこの家では隆太とも部屋が別れるんだよって言っていた。


門を開け、少し歩くと玄関に辿り着く。
途中には小さな庭もあって、その隣には駐車場がある。

お母さんが私と隆太の肩を抱いて、カギを開けるお父さんの背中を一緒に見つめた。


中に入ると、吹き抜けの玄関。そして右側に階段。
隆太と顔を見合わせてからすぐに階段を駆け登った。


「私こっちの部屋がいい!」


階段を上がって一番奥の部屋。
日当たりのいい部屋を一番に選んで、隆太の意見も聞かずに勝手に決めた。

小学2年生の隆太にはまだこの部屋は早い。っていうか姉のほうが強いんだから!

左手の道路側に出窓があって、右の奥にはクローゼット。ドアの正面の壁には窓がひとつ。そこからは隣の家の窓が見えた。窓のしたには小さな屋根。

ここに登ったら楽しいだろうなあ……。
お母さんに見つかったらすっごい怒られるだろうけど。

そして窓のそばには新しいベッド。
隆太と同じっていうのが気に入らないけど、それでも大きなベッドが部屋にあると思うと嬉しい。

これからはベッドで寝ることができる。今まで敷布団だったからベッドが憧れだった。嬉しすぎる……!!